ks七郎 きづいてください




かわれて候。伊庭七郎

じゃらじゃらと鬱陶しい程の装飾品と目が痛くなるほど派手な色の髪、両腕に甲高い声で笑うアホっぽい女を絡ませて悠々と歩く青年が、俺は死ぬほど嫌いだった。けれども絵だけはとかく上等で、その凄絶さはとてもこのちゃらんぽらんな青年が描いたものとは思えない。苦虫を噛み潰しながら「天才青年画家」として売り出してやって、そして、気づけば付き合うことになっていた。なにがどうなったんだか未だに俺も把握出来ていない。

「おーはよ、伊庭さん」

無理矢理持たされた合鍵で開けたそのワンルームは物がごちゃごちゃ溢れていてつい眉が寄る。きったねぇ。その物の大半が女の物だから余計汚く感じる。
そんな部屋からちょろりと端整な顔をのぞかせる___。にんまり、弧を描く灰色がかった瞳を儚げだと感じたのはいつだったか。

「…飯は?」
「食ったよ、ゆーちゃんが裸エプロンで作ってくれた」

思わず放った拳は意外にも正確に___の鳩尾に入った。俺もまだまだいけるな。ぐへえ、とわざとらしく蹲る___の首にべっとりついている薄桃色の口紅。いいご身分だなくそったれが。げしげしと___を足蹴にするも彼の手だけは間違っても踏まない。良くできた足である。

「お前なんか大嫌いだ」
「、うん…ごめんって伊庭さんー、許してよ」

じゃれるように抱きついてきた男は心底安心したような顔をしている。嫌いなのに離れていかないってことは、許すということ。許してしまう程、愛とか情があるということ。だからこいつはもっと俺に嫌われようとして、それでも離れていかないか試して、そして俺に依存する。その不器用さが何故か俺の胸を締め付ける。バカみたいだ。早く気づけばいい。その愛とか情ってやつがもうとっくの昔に振り切れてしまっていることに。

「ねえ、愛してるよ 七郎さん」
「っ、」
「あはは!顔あっかいよ!」
「るせぇな!それより新作!出来てんだろうな!?」
「んー伊庭さんがキスしてくれたら教えるー」

とりあえず拳骨を落として、パタパタとワイシャツで仰ぐ。あーあっちぃな。この部屋エアコン効いてねぇんじゃねぇか。我が物顔でリモコンを操作して温度を下げる。暑くなることしてもいい?なんて、今更だろう。

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