あなたを抱きしめる




薄く緑がかった水色のような、鮮やかで不思議な虹彩。その瞳に引き込まれるのは時間の問題でーーー、いや、おそらく時間すら問題じゃなかった。一目見て魅せられたそれは、今はぼんち揚に齧り付いているけれども。
本当にぼんち揚大好きだな。部屋を半分以上占拠している段ボール箱が全てぼんち揚だというのだから恐ろしい。というか俺といるのにぼんち揚に夢中って。なんとなく気に入らなくて、迅の頬に触れる。やっと俺を映した瞳はやっぱり綺麗で。


「…迅の目、綺麗だな。凄く好きだ」


じいっと目を見つめながらそう言うと、迅は眠たげなその目を丸くしたあと、口を歪ませた。その口元まで運ばれていたぼんち揚が袋に帰っていくのを横目で見る。お、ぼんち揚に勝った。無機物相手に優越感を感じていると、不機嫌そうな声音が耳を打った。


「目だけ?」


今度は俺が目を丸くする番だった。むくれた顔が年相応で可愛らしいのはもちろんだけれど、その目に悲しみがチラリと見えて、心臓が締め付けられた。ああ、迅ってなんでこんなに愛しいんだろう。俺より大きい男のくせに、庇護欲が掻き立てられて仕方がない。


「…___、もしかしてマジで俺の目しか好きじゃないの?俺怒っていい?」

「あ、悪い。可愛いなと思ってたら黙ってたみたいだ。勿論目だけじゃなくて迅の全部が好きだよ」


素直にそう答えると、上目で睨んできてた目が軽く伏せられて、薄い茶色の睫毛が瞳に影を落とす。そっか。なんて意外にも素っ気ない返事をした迅の声は、文面に反してとても嬉しそうで俺を喜ばせる。あ、顔赤くなってる。照れてるのだと丸分かりなその表情に、また胸が締め付けられた。


「ああでも、一番好きなのは目じゃないな」


そう言いながら迅を抱きしめると、細長い指先がふらふら彷徨っていたのでそれも自分のそれで握り締める。こんな甘い雰囲気で指のぼんち揚汚れを気にするなよ…。再び沸き上がる敗北感は、迅がぼすりと頭を俺の胸に預けてきたことで霧散した。くぐもった声で、じゃあどこ?なんて問う迅のつむじに口付ける。


「知りたかったら顔上げて」


素直に顔を上げた迅の瞳は俺の影に入っているからより一層不思議な色で、そして俺しか見れないものだと思うと自然と口角が上がってしまう。

そんな瞳より好きなのは。


「!ちょっ、待っ___…っ!ん…っ!」


部屋には迅と俺しかいないのにキスを恥ずかしがるその顔は勿論可愛いけれど、無理やり口付けた後の言葉を失って真っ赤な顔で口を押さえてるのも可愛くて、俺の心臓は忙しい。でもそれをプライドで捩じ伏せて口を開く。


「一番好きなのは表情だな。俺に振り回されてコロコロ変わる迅の表情、凄く可愛いから」


顔の赤みが落ち着いてきたところだというのに、数回目を瞬かせたあと、再びぶわりと顔を真っ赤にして瞳を潤ませた迅。ああ、ほら、俺の一挙一動でくるくる変わるその表情に堪らなくなる。


「〜〜〜っ、そういうの、ズルイって…」


ぼすりと再び胸に軽い衝撃を受ける。耳と首筋が赤くて熱っぽい。けれど触れた指は特に熱さを感じなくて、ああそうか。俺も熱いから感じないんだな。好きな人の前では格好付けたいけど、脈とか体温とかは制御しようがないから困る。意識すると鼓動がとっても煩くて、迅に聞こえて欲しいような聞こえて欲しくないような、そんな微妙な心境になった。でもそんなことよりも迅をもっと強く抱きしめたくて、腕に力を入れる。視界の端に寂しげなぼんち揚が入って、俺はほくそ笑む。今回は俺の大勝利。


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