工藤新一。彼は所謂高校生探偵というやつだ。その推理力はかのシャーロック·ホームズを彷彿とさせ、知識量では並の刑事じゃ歯がたたない。警察形無しだ。俺の上司である目暮警部も彼を頼りにしているフシがあるし。警察が探偵に頼るってどうなんだとは思うが、まあ百歩譲って探偵を使うのは良しとしよう。でも高校生はダメだろ…! 「工藤くん危ないから動くんじゃない!」 彼は必死に呼びかける俺に一瞥もくれず(いや、こちらを振り返る方が危ないのでそれは良いのだが)、本棚の上に立って窓を調べている。怪我でもしたらどうするんだ!彼がじり、と足を動かす度に冷や汗が噴き出す。 「___刑事、見てください。何か付着しています」 「わかった!俺が確認しよう!脚立を持ってくるから工藤くんは動かずに待っててくれ!」 俺の焦りとは反対に、彼は非常に落ち着いていて、それが余計に不安を煽る。彼は本棚から身を乗り出して付着物に手を伸ばす。だから動くなってば!目暮警部や佐藤刑事はどこ行ったんだ、一緒に止めてくれ! 彼は指先に着いた付着物に納得がいったのか、漸く俺を見た。 「もう終わりましたのでその心配には及びませんよ。本棚の下に立って、手を広げてください」 「え、こうか? って、まさか…、っおああ!?」 気づいたときには既に遅く、俺の視界は彼の制服の菫色にジャックされた。何とか彼を抱きとめれたが、勢いと重力に負けて俺の尻は犠牲となった。いや、そんなことよりも、 「新一!怪我してないか!?」 彼はにっこり笑った。 「オレは大丈夫だぜ。___さんがしっかり抱きとめてくれたからな」 ラフな口調と強調された己の名前にハッとして口を押さえる。やってしまった。勤務中にも関わらず、新一と呼んでしまった。勤務中は私情を挟まない約束だったのに…! 彼は愛らしい笑みを浮かべて、悪魔の囁きを口にする。 「この事件を終わらせられたら、ご褒美くれよな、___さん」 自信に満ちた顔の彼に、俺は力なく頷いた。 to list |