「___先輩。ご卒業、おめでとうございます」 にこり、人当たりの良さそうな笑みを浮かべる後輩にイラッとしたおれは悪くない。卒業証書が入った筒でぱこりと中身の詰まってなさそうな頭を叩く。いてっ、とか絶対思ってねーだろ。 「花とかねーわけ?」 「食えないもんはいらないって言ったの先輩でしょ」 いつもの無表情で首を傾げる京介に、そうだっけかと返すと抱きつかれた。人通りが少ないといえど、全くいない訳じゃねぇんだけどな。そう頭は考えるのに、身体は勝手に抱き締め返している。あほかよ。 「花はないっすけど、おれならいくらでも食べて構いませんよ」 「はいはい。じゃ、食われに来いよ」 京介の学ランのポケットに鍵を押し込む。四月からおれが住むアパートの合鍵だ。 「えっ?何入れたんすか。ちょっと、離してください」 「無理だ。家帰ってから見ろ」 ぎゅうぎゅうに抱き締めればおれと京介の身体は密着して、とてもポケットを探れない。どうだ、とドヤ顔をしていると、京介の無駄に端整な顔がぐっと近づいた。ちゅっ。なんて可愛い音に呆然としていると、京介が鍵を取り出した。策士にも程がある。 「!、これって…」 「……嬉しそうに笑ってんじゃねーよ」 「嬉しいに決まってんじゃないすか。合鍵貰えるなんて、思ってもなかったんすから」 銀の無愛想なそれを大切そうに握りっている京介。可愛いんだよばーか。早く四月になればいいのに。おれはもう一度京介を抱き締めた。 to list |