当真と猫を飼ってる男 ガチャガチャとドアノブを荒々しく回す音が聞こえて、僕は仕方なく布団から這い出た。外は真っ暗だし、とりあえず朝ではない。寝起きのしょぼしょぼする目を擦って鍵を開ける。 「おっ、やぁっと開いた」 「………遠征から帰ってきて第一声がそれか…」 「何だよ文句でも…あっ、タマー。お前もひっさしぶりだなあ」 勇の足元に擦り寄る僕の飼い猫はタマという名前ではなかったはずだが、もうタマでしか返事をしなくなったので諦めた。 タマを抱き上げてご機嫌な勇の背中を押して、ベッドまで行く。ぼすりとそのままベッドに雪崩込むと、タマは勇の腕から抜け出して真っ暗な廊下に消えていった。空気読みすぎでしょ。視界の端で、勇が口角をわざとらしく上げたのが見えた。 「何だよ___さん。寂しかったならそう言えよ」 「お生憎だな、僕は眠いからその手の冗談は明日にしてくれ」 「もう日付変わってっから今日だろ?」 「……日付変わってるの分かってて来るんだから、タチが悪いな」 彼の髪はいつものリーゼントではなく、重力に従ってるからシャワーでも浴びてきたのだろう。抱き締めてその胸に顔を埋める。石鹸の香りがして、よく眠れそうだなと思った。 ゆっくり、僕の髪を梳かす感触がする。 「…___さーん……寝るのはえーな…」 クスクスと小さく笑う勇。意識はまだ残ってるけど、もう身体は動かない。勇が遠征なんて気が気じゃなくて不眠気味だったのだから、許してくれ。 「……ただいま。好きだぜ」 つむじに触れた柔らかいものが何なのかなんて、起きてからおかえりと返すついでに聞けばいいことだ。 to list |