ベイビー/ステップ 池爽児 ベンチで休憩中、ふと思いついたイタズラ。無意識に上がっていた口角を無理矢理下げて、少し遠くでずっとノートに何かを書き込んでいる___に声をかける。 「なあ___ー、首が何か変なんだけど」 わざとらしく首に手をやって、違和感のある素振りをする。やっと俺を見た___は無闇に触るなと注意すると、荷物を投げ出して駆け寄って来る。ようやく構ってもらえそうで内心ウキウキするが、それとなく視線を外してバレないようにする。___は俺の目を見たら何でもわかるらしいし。いつもより余裕のない___が俺の前に跪く。上手くいきそうだ。彼は心配そうに俺の首に手を伸ばした。 「よく見せ、 んむっ」 相変わらず柔らかいなあ。気持ちいい。もっとしたい。もっと、気持ちよくなりたい。 薄目を開けると、呆然としている___が見えて思わず喉で笑ってしまう。レアだな。なんだか甘い気がするその唇に何度も吸い付いて、堪能する。我慢できなくなって舌を入れようとしたとき、ぐいっと強く、けれど優しい手つきで押し返された。あー残念。 「……っはあ、…爽児」 咎めるような声音と唾液を拭う仕草がアンバランスでグッときた。もっかいしようと顔を近づけると、額を人差し指でトンと突かれた。こら、と窘める声は優しくて、恋人っぽい。いや、恋人なんだけどね。 「タチの悪い嘘はやめろ」 「だぁって、構ってくんねーんだもん」 拗ねたフリをしながら___のピアスを弄る。___はキョトンとした後困った顔をした。可愛い。好きだなあその顔。 「…ごめん。でも俺は、いつでも、何してても、爽児のことしか頭にないよ」 だから、あんな心臓に悪い嘘はやめてくれ ちゅっと___が唇を落とした先は俺の左手の薬指。顔がじわじわ熱くなってきて、心音が駆け足になるのがわかる。まったく、どっちが心臓に悪いんだか。 to list |