りょうおもいなふたり




「バッカじゃないの」


さっきまで笑顔で話していた目の前の吉田さんの顔が固まる。と同時に騒がしかった教室が水を打ったようにしんとした。後ろからピリピリ感じる不機嫌オーラに振り返りたくなかったけど、そういうわけにもいかないよなー。


「……徹、なに?なんか用?」


振り向くと当然の如く般若の顔をした徹がいた。般若って嫉妬した女の顔らしいけどマジでそれだった。わあ俺ってば愛されてるう。


「はあ!?お前がへらへらにやにや気持ち悪かったから止めてやったんじゃん!言っとくけどその子、お前に気なんてこれっっっっぽっちもないからねこの勘違い男!」


いつもの爽やかイケメンフェイスをこれでもかというほど歪ましている徹。このヒステリックも一年の頃からやってるせいか、クラスの皆はまたやってるよって顔をして早々に興味をなくしたようだった。あ、吉田さんもいなくなってる。絶対あの子俺のこと好きだと思うけど、徹の腸が煮えくり返ってるようだからお口にチャック。


「はいはい、ありがと徹。今日部活なかったよな?」

「!…ん、」


一瞬めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしたのに、その顔を無理矢理不貞腐れた表情にして頷く徹。怒鳴り散らした手前、素直に尻尾を振るわけにはいかないんだろう。この強情さんめ。


「じゃ、一緒に帰ろーぜ」

「!、まあ、___がそんなに言うなら一緒に帰ってやらなくもないけどね!」

「はいはい、嬉しいよ徹。ほらおいで」


片手でペラペラのカバンを持って、もう片方の手を徹に向かって広げる。徹は暫くぷるぷる震えていたが、じっと待っているとガバッと飛び込んできた。はい懐柔完了。


「う…、さっきの、ごめん」

「いーよ、謝ってくれたし。嫉妬してくれたんでしょ?嬉しいよ」

「___…っ!そういうの絶対俺以外に言っちゃダメだからね!」

「はいはい、俺には徹だけだぜー」

「!」


キラキラ顔を輝かせちゃってまあ。ぎゅうぎゅうに抱きついてきて、嬉しい嬉しいと全身で訴えてくる徹につい笑ってしまう。ここまで俺の事を好きになってくれるのは徹だけだろうし、徹をここまで上手く転がせれるのも俺だけだろう。仲直りのちゅーして、とせがまれたので顔を近づける。あと少しだ唇が触れるというところで、ガッと徹の首にチョークスリーパーが決まった。今日も岩泉はキレッキレだなあ。そして徹のタップアウトの早さ。


「っごほ!…岩ちゃん何なの!?」

「イチャついてんじゃねぇよクソ川」

「俺だけ!?出たよ岩ちゃんの___贔屓!」

「ああ゛?さっきのはテメーからだっただろうが。見えねーとこでやれ」

「うぐ、」


岩泉に言い負かされて、すごすごと俺から離れる徹。それでも小さく俺の制服の端っこを握っている。お前ってホント俺の事好きだね。

岩泉は公衆の面前でするとはマナーが、とか、男バレの主将としてメンツが、とかどんどん徹を追い詰めてる。大好きな岩泉にボコボコにされてしょんぼりする徹。せっかく機嫌が戻ってたのに、なんてぼんやり思ったが、更に機嫌を良くする方法を思いついた。

ぐいっと徹を引き寄せて、

ちゅっ


あっはは。二人ともマヌケ顔だなあ。


「俺は、徹が思ってる以上に徹のこと好きだよ」


ニコッと笑ってやると、徹は顔どころか首まで真っ赤にした。呆然としている岩泉の血管が切れたら徹はいいとして、俺も殴られてしまうので徹の手をとって走り出す。


「うわっ、ちょ、___…っ?」

「愛の逃避行ってやつだねー。徹はそういうの好き?」


少し遠くから岩泉の怒号が聞こえる。ちょっとくらいいいじゃんね、見てたのなんてお前と何人かの女子だけだよ。


「___となら、何でも好きだよ」


屈託なく笑う徹に、俺も笑い返す。こいつって嫉妬深かったり、面倒なとこもあるけど、こんな簡単なことで上機嫌になるもんだから可愛くて仕方ないのだ。まったく、俺も変なのに捕まったよなあ。まあ嫌じゃないんだけどね。


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