「俺捨てときます」 ___の声が頭の中で何度もリフレインする。ああ、そうかよ、そんなにおれが食ったパン食いたくねぇのかよ。嫌なんだったら最初から嫌がれよ。おれが食える位置にパンを持ってたお前が悪い。おれは悪くない。だって、そんなん、知らねーよ。 ガサリ、結局持ってきてしまった菓子パンをみる。米屋に食わねぇならくれ、って言われたけどおれは渡さなかった。当たり前だ、___が口をつけたもんを誰かに食わせるわけ無い。___もそうしたら良かったんだ。嫌っすよ、出水先輩男だしって言ってくれりゃおれだって食わなかった。くそ、なんだよ。こんなつもりじゃ、なかった。ただ___が食ってんの見てたら美味そうに見えたから貰っただけだ。つーか、男同士で回し食いとか回し飲みとか普通だろうが。米屋とはやるくせにそんなにおれとは嫌なのかよ。、おれだけ、嫌、とか…ホント腹立つ、し、…苦しい。あーくそ、___のくせに、うざい。 「___の、菓子パンバカ野郎…」 「菓子パンバカ野郎ってなんすか」 「っ!?」 見上げると___が立っていた。 「、んで、ここ…」 「米屋先輩が、出水先輩が屋上で菓子パンに向かって呪詛吐いてるって教えてくれたんすよ」 「ぐ、あの槍バカ…。……つーか授業中だろ、帰れよ」 「出水先輩だってサボりじゃないっすか」 ははっ、と余りにも普通に笑う___にどう対応すればいいか分からない。普段それなりに回転する頭は、こいつがおれを見てるって、ただそれだけで動かなくなる。顔を背けたおれの肩に何かが触れた。、___だ。何だこいつ、何で隣に座ってんだよ。うわ、近い。熱い、気がする。 「あの、そろそろ何で怒ってるか教えてくれないっすか。謝りようがないんすけど…」 「っ、…お前が、」 「はい、俺が…?」 今まで聞いたことのない優しい声に、思わず横を見る。___は真剣な顔でおれをじっと見ていた。 「お前が、…___が弾バカとは回し食いすんのに、…おれとは嫌がる、か、…ら 、ッ!」 慌てて口を抑える。何バカ正直に言ってんだおれ。これじゃまるでおれとも回し食いしろって強要してる変態じゃねぇか。うわ、ぜってぇ___引いてる。ありえねぇ、何言ってんだおれ。 「……俺は、出水先輩が嫌がってると思って」 「…おれ、が?」 「………気色悪いって言ったじゃないっすか」 「ッ、あれは、言葉の綾っつーか、」 「俺、それ聞いて、何か苦しくて、それでパン食えなかったんすけど」 「………は、」 おれが気色悪いって言ったから、苦しくなってパン食わねぇって、どういうことだ。あんなのただの軽口だろ。それなのに、それって、なあ、期待してもいいのかよ。 「……出水先輩、見すぎ。穴開く」 「、んな見てねぇよ。自意識過じょ、う……」 あ、またやっちまった。___はすんませんね、なんて笑って流してるけど、こういうのがおれの悪いところなんだろう。おれが___に言われたら傷つく言葉を、おれは沢山言っている。 ぐ、と右手を握り込む。息を吸って口を開く。相手を出し抜くのは得意なつもりだ。 「おい___」 「はいー?」 「これからお前のこともっと見るから、覚悟しとけ」 ぽかんとしている___に気分が良くなる。ホントに穴が開くまで見てやるよ。きっと、こんなに好きな奴なら、どんなに見てたって見飽きねーんだ。 ーーーーーーーーー 菓子パンの残りはスタッフが美味しく頂きました。 to list |