butler | ナノ




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「これはこれは……○○○様の仮装は女怪盗、といったところでしょうか」


部屋にやってきたジャンさんが私の恰好を上から下まで眺め、にこやかに微笑んだ。


「へ、変でしょうか…?」
「いいえ、とってもお似合いです!勇ましい姿の中にも○○○様らしい可愛らしさがありますね」


ストレートな言葉で褒められるとやはり恥ずかしくなってしまう。
シルクハットにマント、古道具屋さんで偶然見つけた片眼鏡をかけ怪盗をイメージした仮装。


「……しかし、」
「え?」


すっ、と距離をつめるジャンさん。
その近さは客人と執事との距離ではなく。


「○○○の魅力が溢れすぎてパーティーに連れて行きたくなくなるね」


突然恋人モードでのジャンさんが耳元で囁き、腰を引き寄せられる。


「ジャ、ジャンさん……っ、」
「マントに隠れているからまだいいけど……、ちょっとスカートの丈も短いし……」


腰を抱き寄せられたまま指先で頬を撫でられ、吐息がかかるくらいの距離で囁かれれば体中の力が抜けそうになる。
不意打ちのジャンさんの行動に私はただ真っ赤になるしかなかった。




「マントの紐、緩まないようにね」


そう言って胸元のリボンを結びなおしてくれる。


「おっと。……そろそろお時間のようですね。まいりましょうか○○○様」
「は、はい……」


あっという間に執事に戻ったジャンさんにエスコートされ、客間を出た。


「しかし、どうして怪盗の仮装を?」
「えっと、それは……」


理由を聞かれ、その場ですぐに答えられず口ごもる。

この衣装を選んだのにはちょっとした願望があるのだ。
それは、勇気を出してジャンさんに言ってみたいセリフ。




―――“貴方のハートを頂きにまいりました”




そんな事を言ったらどんな顔をするだろう。

衣装の力を借りて、貴方の心をひとりじめ出来るなら。
ジャンさんの驚く顔が見たくて思いついたちょっとしたサプライズを成功させようとジャンさんに気付かれないようにひとつ息を吐き、気持ちを落ち着かせていた。


月の光が妖しく輝くハロウィンの夜、
貴方に悪戯をする勇気をください――――









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