butler | ナノ




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「体温計はどこですか」
「ありません…」
「そんなわけがないでしょう。……ならば探させていただきます」
「あ!うそですあります出します…!」


ベッドサイドのチェストに手をかけようとした私の手を慌てて止める○○○。
掴んでくるその手の熱さは普段よりも一段と熱をもっている。


「…でも、熱はないです、大丈夫ですから!」
「明らかに風邪の症状が出てるではないですか」


ベッドに横になりながら(半ば強制的に寝かせたのだが)まだこんなことを言う。

赤い頬にとろんとした瞳、
鼻をすすり声も枯れている。


「失礼します」
「えっ……ひゃっ…!」


○○○の額に自分のそれを合わせる。
思っていた以上に熱い。
額を離し、○○○の表情をみると真っ赤になりながら口をパクパクさせている。

…が。


「……風邪なんてひいてないです…」
「どうしてそこまで意地を張るのですか」


頑な○○○のこの態度はなんなのか。


「明日…」
「…明日?」


「明日、クロードさんとお出かけする約束してたじゃないですか……
せっかくのお休みなのに……ずっと明日が来るのを楽しみにしていたんです…」


潜った毛布からのぞかせている瞳がますます潤んでいくのが分かる。
ようやく出た彼女の本音。


「貴女って人は……」


長い溜息を吐き、ベッドの淵に腰掛けて○○○の頬へ手を伸ばす。

そして、
ふにっ、と柔らかいその頬をつねってやった。


「いだいっ!な、何するんですかクロードさんっ」
「最初から素直にならないからですよ」


とか言いつつ自分も素直じゃないな、と常々思う。
体調が悪いのを隠そうとしていた理由が自分のためだという事に胸が熱くなったのも事実。


「心配しなくても外出する機会はこれからもあります。……まぁ、またしばらく先にはなりますが……その間に貴女がこの仕事人間の私に愛想を尽かせてしまっているかもしれませんが」
「そんな事するわけないじゃないですかっ!」
「冗談ですよ。もちろん私もあなたを離す気はありません」


途端に○○○の顔がみるみるうちに赤くなる。


「クロードさん……」
「言っておきますが、明日の私の休日はなくなったわけではありませんよ?こうして○○○が辛いときに一緒にいることが出来てむしろ良かったと思っています」


もし、○○○の具合が悪い時にすぐに駆けつけられない状況だったら。
以前の自分では考えられないが、仕事中でも気が気ではないだろう。

王室付きの執事をしている限り、今後そういう事が起こることは必然的に多くなる。
だからこそ今回こうして○○○の傍にいれることが嬉しいのだ。


「だから、今はゆっくり休んで。○○○が眠るまでここにいるから」


今度はやさしく頬を撫でる。
やっと○○○の力が抜け、安心したような表情を私に向ける。


「クロードさん……大好き」



眠りに落ちながら紡いだその言葉に愛おしさがこみあげる。


「私も……大好きですよ、○○○」


普段ななかなか口には出来ないが、溢れた想いを素直に言葉にした。

夢の中にまで届いたのか、○○○がふわっと笑顔を浮かべた。




20141023