butler | ナノ
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「うーん……どうすればいいかな……」
部屋の中を行ったり来たり。
その度に揺れる黒いサテンのマント。
「絶対素直につけてくれる筈ないもんね……」
頭には目深に被った大きなつばの三角帽子。
今夜のハロウィンパーティーのために用意した仮装。
私が選んだ衣装は三角帽子に黒マント、手にはステッキを持っていわゆる魔女のコスチューム。
大人になってまで仮装するなんて……と最初は恥ずかしかったけど、いくつになっても変身願望というものは持っているのだ。
子どもの頃よく憧れた大きなマント。
シーツを代わりにしてよく遊んだっけ、その度に母親に叱られた事を思い出す。
今回のパーティーのためにと用意してくれた衣装はさすが王室、素材も一流の物でそのクオリティの高さに本物の魔女になったような気分になれる。
―――そして。
年に1度のハロウィンなのだから私だけでなく皆に仮装を楽しんでもらいたいのだ。
日常を忘れてほんのひとときでもいい。
――そう、誰よりも嫌がりそうな彼にも。
「失礼いたします」
待ち人がようやくやって来ていよいよミッションを遂行する時。
「○○○様……、まだ着替えていらっしゃらないのですか?」
「あ……はい…っ、せっかくの衣装だから着替えるのが勿体なくて……」
部屋に入るなり私の格好を見てそう言うクロードさんは、その後いつものように本日最後のお茶の用意にとりかかった。
「あの……クロードさん、お願いがあるんですが……」
紅茶を用意するクロードさんの背中に向かっておずおずと声をかける。
ゆっくりと頭だけ振り返り、私を見下ろすクロードさん。
「何でしょうか」
「え、……っとですね……」
もごもごと言いよどむ私。いざ口に出すとなると恥ずかしさが勝ってしまう。
紅茶を淹れ終わった手を止め、ティーポットを置いたクロードさんが体ごとこちらを向き直り私を怪訝そうに見下ろしている。
もう引き下がれない。
意を決して顔を上げ、クロードさんをしっかりと見つめ、ある物を目の前に差し出し、言い放った。
「クロードさん……!あの……これ、つけてくれませんか?!」
「お断りします」
「ええっ!即答ですかっ!!」
やはりというか、瞬殺されるのは目に見えていた。
ましてや“コレ”をつけて下さいと言ってイエスと言うクロードさんが想像できない。
それでもやっぱり僅かな期待を胸にお願いしてみたのだ。
「や、やっぱり……だめですか……?」
「貴女は私をからかっているのですか?つけるわけないでしょう、何故私がそのような物を」
「でも……今日はハロウィンですよ……?」
「存じております。先ほどまでハロウィンパーティーが催されていたので」
再びクロードさんがティーワゴンまで戻り、紅茶のセッティングを終えていく。
「ちなみにクロードさん、この後お仕事は……」
「貴女へのお休み前のこのお茶をお出しすれば本日の執務は終了です」
「じゃ…じゃあ……!!」
2人きりのハロウィンを過ごしたくて。
「……私の我が儘……聞いてくれますか?」
いつもだったら恥ずかしくってこんな事言えない。
でも恋人同士のハロウィンを過ごすために思い切って彼に甘えるように訴えた。
「我が儘……とは一体……」
「ト……トリックオアトリート!!」
「なっ……」
「お菓子……持ってないですよね、クロードさん……?」
魔女のコスチュームとともに用意したステッキをクロードさんにつきつける。
正直、とてつもなく恥ずかしいけど。
クロードさんはというと、あっけにとられた顔をしている。
ひと間あって長いため息が一つ。
「仕方ありませんね……」
「え……?」
「たまには貴女の我が儘も叶えて差し上げますよ」
今度は私が目をパチクリさせる番だった。
まさか本当にクロードさんからイエスの返事がもらえるなんて。
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