butler | ナノ




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「そういえば……もうすぐ○○○の誕生日だって聞いたけど」
「あ……、そっか、そうでした……」
「……もしかして忘れていたの?」
「すみません……しばらくテストが続いたりしていたのですっかり曜日の感覚がなくなっていました」
「そうか……。じゃあ当日、何も予定がなければここでパーティーを開いてお祝いでもする……?」
「えっ!……いえ、そんな!!」



――フィリップ城、ウィル王子の執務室。
執務がひと段落したウィル王子に誘われ、午後のティータイムを一緒に過ごしていた時。
突然のウィル王子の提案。
王子様に誕生日パーティーを開いてもらうなんて、単なるお誕生日会になんてなるはずがない。恐れ多くて首をブンブンと振った。




「あいにくですがウィル様、」
「何だ?クロード」
「○○○様のお誕生日であるその日は公務が入っており、ウィル様はフィリップを離れております」
「……そうか。それは残念だな……」


眉尻を下げるウィル王子に私は笑顔を向ける。


「あのっ、お気持ちだけで十分嬉しいです……ありがとうございます、ウィル王子」


ぺこりと頭を下げる私に、すまないと言いながら頭を撫でるウィル王子。
掌から伝わる温かさからウィル王子の優しさも一緒に伝わってきた。


「クロード」
「はい」
「その公務なんだが、……お前は――」
「ウィル様、」


ウィル王子の言わんとする事が分かるのか、クロードさんが制するように言葉を重ねる。


「私の優先すべき事はウィル様に仕える事です。私事で執務を疎かにするつもりはございません」
「クロード……」


変わらない態度のクロードさんを見やりながらため息をつくウィル王子。


「ウィル王子、私の事ならお気になさらないでください。……私も、クロードさんのお仕事を邪魔するつもりはありませんので……」
「○○○……」


またしても済まなさそうにするウィル王子に努めて明るく振る舞う。


「……○○○も苦労するな」


そんな私の耳元に顔を寄せ、私にだけ聞こえるような声で囁いた。




――恋人であるクロードさんは王室の専属執事。
ウィル王子に仕える身として生きてきたクロードさんのスタイルが急に変わるわけでもなく、もちろん私だってそれはちゃんと理解しているつもりだ。


とはいえ。

僅かな期待を胸に抱いていたものがあっさり消えてしまったのはやはり寂しい。


自分の誕生日。
今年は誰よりもクロードさんと過ごしたくって。
もちろん忙しい彼に多くの時間を貰うつもりはない。

少しだけ。
ほんの少しの時間でいいから傍にいてくれたらな、と思っていたのだ。


(ま……仕方ないよね……)


あの様子だと誕生日当日はクロードさんに自由な時間はないだろう。
たとえ都合を伺っても断られるのが目に見えているから聞くのが怖い。


大好きな執事の彼が淹れてくれた少し冷めた紅茶を喉に流し込んだ。






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