butler | ナノ
(1/1page)
「貴女が、好きなんです」
ずっと、ずっと密かに想い焦がれていたルイスさんから、私の欲しかった言葉を聞いたときは、あまりの嬉しさに涙がとまらなかった。
いつものふんわりとした雰囲気とは違って、熱く強い意志を持った眼差しを向けるルイスさん。
そこから感じとったその想いに胸がいっぱいになり、
「私も……好きです、……ルイスさんの事がずっと……っ」
そう言うのがやっとで、子どものように泣きじゃくる私にルイスさんは柔らかく微笑み、そっとその涙を拭うように唇を寄せる。
そして思わず瞑ったその瞼に優しくキスをしてくれた。
「○○○さん……ありがとう……」
想いが通じ合うって、こんなに幸せな事なんだ。
それをルイスさん自身が叶えてくれるなんて夢にも思わなかった。
愛しさをこめて瞼へ
静かな客間。
中央に置かれたテーブル、その前に並んで座る私の隣でパラパラと本のページをめくるルイスさん。
その真剣な横顔に思わず手をとめ見惚れてしまう。
長い睫毛がぱちぱちと動く。
スッと通った鼻筋。
ふっくらとした柔らかそうな唇。
(この唇が、私に触れたんだよね……)
――今でも瞼に落とされた彼の唇の感触が忘れられない。
優しい口づけ。
そこから伝わったぬくもり。
初めて知ったルイスさんの香り。
「○○○、さん……?」
「……え、……っあ!!」
「……どうされましたか?何か分からない所でもありましたか?」
「あ……!いえ、……っ」
本人を目の前にして物思いにふけってしまっていた。
慌てて自分の目の前にある本のページをぱらぱらとめくる。
(せっかく、ルイスさんの時間を貰ってお手伝いしてもらっているのに……私ったら……)
大学の課題の最中だというのに、完全に手が止まった状態でいた私。
(どうしよう、きっとルイスさん呆れ返ってるよね……)
課題内容であるシャルル王国の歴史について調べていたところ、行き詰った課題を前に途方に暮れていたらルイスさんがシャルル城の書庫の資料を参考にしてはと提案してくれた。
早速エドワード様にも許可を取って頂き、快く承諾してくれたエドワード様に感謝しながら、一般の人が到底入れないその場所に恐れ多くも入らせてもらう事に。
貴重な本を傷つけないようにそぉっと扱う。
参考になりそうな文献をいくつか探してくれたルイスさんは、仕事が終わった後でも一緒に資料探しを手伝ってくれたのだ。
「そんなに見つめられると……」
「……えっ…!!あっ……ご、ごめんなさいっ…」
ゆっくり、ルイスさんがこちらを向く。
恥ずかしくて顔を上げられない。
「○○○さん、顔を上げてください」
「む、無理です……」
「ですが、そのままだと……」
「……っ、」
隣同士、椅子に座る私たち。
ルイスさんが体ごとこちらを向ければ、ルイスさんの膝頭が同じく私の膝に少し触れる。
それだけでも胸がどきどきして止まらないのに、
ルイスさんの細く長い指が頬を滑り、顔の輪郭をなぞる。
そのまま顎をとらえられ、ゆっくりと持ち上げられ。
そうすれば視界に飛び込むルイスさんの顔。
少し困ったように眉根を寄せ、切なそうな表情。
でも目が合ったと思えばふわっと笑みを浮かべるその表情にやはり見惚れてしまうのだ。
(ルイスさんて……なんだか綺麗…)
男の人に「綺麗」というのはおかしいけれど、ルイスさんの澄んだ瞳や、光の輪を作る黒髪、男性にしては少し色の白いその肌。
女の私から見ても羨ましいな、なんて思う。
そしてその瞳に見つめられるとくらくらして鼓動が速くなって。
ルイスさんの息遣いまで分かるほど近づいたこの距離に、これ以上ないくらい心臓が騒いだ。
そして。
顎に添えられていたルイスさんの親指がゆっくりと私の唇をなぞった。
「っ!」
「……貴女の気持ちを手に入れてから、私は欲張りになってしまったようです」
「え……っ」
「貴女が傍にいるだけで、抑えが利かなくなる……」
「ルイスさん……?」
「○○○、」
「…!は、はいっ…!」
突然呼び捨てにされた私の名前。
「キス……、してもいいですか……?」
「あ…っ」
答える間もなく、降りてきた唇。
ルイスさんとの2度目のキスは、
緊張で震える私の唇に落とされた。
瞼に落とされたキスと同じで、
優しくて、
あったかくて……
ルイスさんのジャケットをきゅっと掴めば、背中に回されたその腕に少し力が込められた。
「好きですよ……○○○……」
――何度だって、伝えたい。
この気持ちを言葉で、
そして
触れるぬくもりで――
20130523
…………………………
今年もキスの日に便乗!
ルイスさんとのキスは柔らかくて優しいんだろうな(*´`*)