butler | ナノ
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「○○○か。よく来たな」
「ジョシュア様お久しぶりです。その後お体の具合は大丈夫ですか?」
「ああ。さほど酷くならずに落ち着いた。…あの時は一緒に行けずにすまなかった」
久しぶりに訪れたドレスヴァン城。
真っ先に王子であるジョシュア様に挨拶をするべく執務室を訪れる。
デスクで書類と向き合うジョシュア様は、私の顔を見るとふっと目元を緩めて出迎えてくれた。
先日の試運転も兼ねてのドライブ、本来ならジョシュア様も一緒に同行するはずだったけど、ジョシュア様は風邪をひかれてしまいジャンさんと二人でのドライブとなった。
そして今日、ジャンさんとはあの日以来初めて顔を合わせる事に。
――あの日。
思いがけずジャンさんと二人だけでのドライブに行くことになって。
一日中一緒に過ごして、ジャンさんの新たな一面を知ることが出来て私のジャンさんへの想いは募っていくばかりだった。
あれからジャンさんを思い出さない日はなく、「今度いつ会えるだろう」「今何をしているだろう」とそんな事ばかり頭に浮かぶ。
日に日に募るジャンさんへの想い。
毎日ではないけれどメールのやり取りも増えた。
内容は他愛もないものだけど、私は大学での出来事など、そしてジャンさんからはドレスヴァン城での出来事やお天気、そしてジョシュア様のことなど。
他愛もない事でもジャンさんを近くに感じられて、メールが届くのがとても楽しみになっていた。
「すまなかったな。今日も○○○の家にジャンを迎えに寄越すつもりでいたが、どうしても公務にあいつを連れていかねばならなかったのでな……」
「とんでもないです。いつも迎えに来て頂いて本当ありがとうございます」
ジャンさんの代わりに別の執事さんがアパートまで迎えに来てくれたのだ。
それでもドレスヴァンに近づくにつれ、もうすぐジャンさんに会えると思うと車の中からそわそわしっぱなしだったのだ。
「この後は城での仕事のみだ。直にジャンも手が空くだろう。後で○○○の部屋に向かわせるから何かあったらジャンに言えばいい」
「はい、ありがとうございます……」
同じこの城にジャンさんがいると思うだけで胸の高鳴りが抑えられない。
メールではなく、直接顔を見て話す事が出来るのが嬉しくて仕方ない。
(私、ジャンさんの事こんなにも好きになっちゃったんだ……)
ジャンさんへの想いが憧れから好きに変わったと確信したのは紛れもなくあのドライブの日から。
お城での執事としての顔ではなく違うジャンさんの一面を見つけたり、優しい笑顔を向けられるたび胸がきゅんと鳴った。
それはまさしく恋患いの症状で。
いつか、きちんと想いを伝える事が出来れば……などと想いを馳せていた。
――“少し息抜きをする”というジョシュア様と一緒に、庭園をしばらく散策した後、城内に戻りそれぞれの部屋へ戻ることに。
長い廊下を二人で歩いていたその時。
「あ……」
前方の柱の陰に、ちらりと視界に映ったのは見慣れたスーツを着た長身の人影。
何度となく目で追い、いつしかその姿を探すようになった彼の背中。
(もしかして……)
トクン、トクンと急に早鐘をうつ心臓。
一歩ずつ歩みを進めれば遠目でも見間違う事のない後ろ姿は間違いなくジャンさん。
目の前に彼がいるという事の嬉しさのあまり、自然と足の歩みが早くなる。
――しかし。
(え……?)
駆け寄ろうとした歩みを止めた。
なぜなら、
そこにはジャンさんだけではなかったから。
ジャンさんの大きな背中、
見慣れたスーツに、
細く白い腕が回されていた。
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