butler | ナノ




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「かーわいい!!やっぱり○○○は何を着ても可愛いなぁ」
「あ、ありがとうロベルト……」

姿見の前に立つ私を後ろから覗き込み、鏡越しににこにこと笑顔を向けるのはこの城の王子ロベルト。

そこに映る私は、普段の生活を送っていたら到底着ることのないような、上質のドレスを身に纏っていた。


「これ、ちゃんと俺も選んだんだからね?一応アルの好みも入れたけど、俺からの誕生日プレゼントってことで!」
「えっ…!いいの?こんなに素敵なドレス……」
「もちろん!○○○のために選んだドレスだから貰ってくれると嬉しいな」
「ロベルト……ありがとう!」


私は振り返り、後ろに立つロベルトにお礼を言う。
そんな私を見て、はーっとひとつため息をつき、


「ほんとはさー…それを着た○○○を俺がエスコートしたかったんだけどなー……」
「……何か仰いましたか?」


するとそれまで黙っていたアルベルトさんがすかさず咎めた。


「……なんでもないよ……ハァ……せっかく今日は○○○の誕生日なのに……俺も行きたかったなー…」
「ロベルト様には本日は大事な会議がございます。必ずそちらに出席して頂かないと困ります」
「わかってるって!だから今日のパーティーはアルに行ってもらうんだろ。……ちゃんと○○○の事エスコートしてやってよ?」
「言われなくてもそのつもりでございますが」


漸く諦めがついたのか、ロベルトが溜息とともにソファに体を沈ませた。

私は何度も姿見でおかしなところがないかチェックしながら、不安に思っていることをぽそりと呟く。


「でも……ほんとに私が参加してもいいのかな……」
「あ、心配しなくていいよ○○○。今日のパーティーはいつもと違って小さなカジュアルなパーティーでそんなにかしこまらなくてもいいから。アルが傍にいたら大丈夫だから楽しんでおいで?」
「うん……ありがとう」


今では恋人となったアルベルトさんが今日は私をエスコートしてくれる。
もちろんこんな事は初めてで、今アルベルトさんの服装も執事の時のそれとは違いパーティー仕様のスーツ。
いつもと違う雰囲気のアルベルトさんにさっきから私はまともに顔を見ることが出来ずドキドキしっぱなしなのだ。

バトン家と古くから親しくしているという伯爵夫妻主催のパーティー。
本当ならロベルト王子が出席する予定だったけど公務のため行けなくなり、代わりに長年バトン家に仕え同じく親交のあるアルベルトさんに白羽の矢が立ったのだ。

その会場となるホテルに到着し、リムジンからすぐに降りたアルベルトさんが優雅にエスコートしてくれる。


「さ、どうぞ○○○様」


スッと出された腕にドキドキしながら遠慮がちに自分の腕を絡ませる。
自分の掌からこのどきどきが伝わるんじゃないかと思いながら、ゆっくりエントランスに足を進める。
エレベーターホール、誰もいないその場所で2人、エレベーターが到着するのを待っていると、


「○○○……すまなかった」
「えっ……?」


突然、アルベルトさんが謝る。
2人きりになった事から口調が少し崩れ、見上げれば恋人モードのアルベルトさんの顔。


「せっかくの○○○の誕生日、2人きりで過ごす事が出来れば良かったのですが……」
「そんな事……。それにお仕事とはいえ、こうしてアルベルトさんと一緒にいられてすごく嬉しいんですよ?」
「○○○……。明日は少しお暇を頂いています。
……だから、今日の分も含めてお祝いさせてほしい……」
「アルベルトさん……はいっ!」


見上げると優しそうに私を見下ろすアルベルトさんと視線が交わる。
組んでいた腕をほどき、私の手のひらを包み込むアルベルトさんの大きな手。
きゅっと指を絡めあうようにして繋ぎ直し、到着したエレベーターに乗り込んだ。






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