butler | ナノ




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かしゃかしゃと、規則正しい音を立ててボウルの中身を混ぜるアルベルトさん。
その手際のいい姿を向かい側からじっと眺める。


「アルベルトさん、ほんとにお菓子作りもこなしてしまうんですね」
「ええ、時々ですが」
「それにすごく材料にもこだわってる…」


ステンレスの作業台に並ぶ材料に書かれているパッケージはどれも上品なものばかりで、質の良さがうかがえる。


「作るからには最上級のものを、そして自分のこだわりを貫きたいので手は抜きません」
「ロベルトはいいなぁ…いつもこんなに素敵なおやつが食べられて…」
「……なにもロベルト様だけに召しあがって頂くわけではありませんから」
「国王さまも、ですか?」
「もちろんそうですが、今は他にも……」
「…えっ?」
「あ、いえ…………あ、次のが焼き上がりましたね」


厨房の大きなオーブン、その重そうな扉を片手でさっと開ける。
その動作ひとつをとってもかっこよくて……

中身をチェックする真剣な表情にも見惚れてしまう。


「…よし」


納得の出来上がりだったのか、少し笑みを浮かべたアルベルトさんが天板を取り出し、クッキーをクッキークーラーに並べる。


「わぁっ!さっきのとはまた違うタイプのクッキーだ…一度にいろんな種類が作れるなんて……やっぱりアルベルトさんはすごいです」
「恐れ入ります」


アルベルトさんのお手製のクッキーはなんだか誇らしげに並んでいるようで。


「……おいしそう〜…」


いい匂いにつられ、思わず呟く。
すると、アルベルトさんがその中の一つをつまみあげ、熱いそれを冷ますように何度か息を吹きかけ、

そして、


「よければ、味見を」


そう言ってそのまま私の口もとに運んだ。


(え……っ!?)


手で受け取るには近すぎる距離、
てことはこれはつまり……


(口をあけろ……ってこと…?)


目の前のアルベルトさんはじっと私を見つめたまま無言で口を開けるように促してきて。

この状況がいまいち飲み込めていない私はどうしたらいいか分からず勢いに押されるようにおずおずと口を開けたら……


「!」


アルベルトさんがそれを私の口に運ぶ。
その時にアルベルトさんの指先が唇に触れ、私の心臓はドキンと跳ねた。


「……如何でしょうか?」


アルベルトさんはいたって普通に私に問いかけてきたけど、一方の私はというと、触れたアルベルトさんの指先の感覚だけがいつまでも唇に残り、正直味わう余裕がなかった。
赤くなっているであろう顔を隠すように俯きながら、それでもなんとかもぐもぐと口を動かす。


「………あ、」


そこでふ、と気づく。


「これ……私の好きなナッツ……」
「お気づきになりましたか」


顔を上げ、アルベルトさんを見上げると少し照れくさそうなアルベルトさんの笑顔。


「貴女が好きだと仰っていたナッツを生地に混ぜて焼いてみましたが……どうですか?」


アルベルトさんが私のためにと焼いてくれたそれは。
今までのどんなものよりも美味しく、そして優しく、幸せな味がした。


「……はいっ、すごく美味しいです…!」





――――貴女に喜んでもらえる事が何よりも幸せです。









20120907
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想いが通じ合う前のとあるひととき。
アルは無自覚でドキドキする事をしてきたらいい。