butler | ナノ
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「よし、ジャンさんの分はこれで完璧……!あとは……」
ラッピングを施した包みを前にして我ながら出来栄えに満足して次の作業にとりかかる。
「明日のパーティーで配るのは少し大きさを変えて……」
明日、ドレスヴァン城でハロウィンパーティーが行われる予定で、私もジョシュア様に招待され恐れ多くも参加することになり。
その時に配るお菓子を自分でも用意しようと考えていたのだ。
粉をはかりに入れ、冷蔵庫から卵とバターを取り出したところで部屋のチャイムが鳴る。
「――えっ?…ジャンさんもう来ちゃった!?」
―そう。
今日はジャンさんがここにやって来る事に。
ノーブルミッシェル城で執事会議が行われ、その後ジャンさんは明日の午前中までお休みを頂いたそうで、久しぶりにこの部屋を訪ねてくれることになったのだ。
その知らせを受けてから私はかなり浮き足立って、今日という日がとても待ち遠しくて。
(でも、予定より早いよね…!?どうしよう、まだ完成してないし、キッチンは散らかってるし……)
そうはいっても待たせてはいけないと慌てて玄関へ向かう。
そして扉を開ければ大好きなその人、ジャンさんがにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
「ジャンさん……! え、と………おかえりなさいっ」
少し気恥ずかしかったが、仕事終わりのジャンさんを「おかえり」と迎えたかったので思い切って言ってみる。
ドキドキしながらジャンさんを見上げると、照れくさそうな顔で少し顔を赤く染めながら、
「はい、………ただいま、○○○」
胸の奥がじわり、と温かくなった。
もし、ジャンさんとひとつ屋根の下で暮らしたりするとこうやって毎日ただいまとおかえりなさいを言えるのかな。
…いつか、そんな日が迎えられたら。
そんな夢のような事をふわふわと考えて再び顔が赤くなるのが分かった。
リビングに通そうとしたら、ジャンさんがキッチンの様子に目を止める。
「あっ…、ごめんなさい、ジャンさんが来るまでに明日の支度を済ませるつもりだったんだけど……すぐに終わらせますね」
「外からでも分かったよ。すごくいい匂いがしてた。……よし、俺も手伝うよ」
「えっ、でも悪いです……ジャンさんお仕事終わりで疲れてるのに…」
そんな私の言葉も聞かず、さっさとジャケットを脱ぎ、ソファーの背もたれにかける。
シャツの袖をまくり、
「○○○とこうして二人でキッチンに立つの、実は憧れていたんだ。…せっかくだから一緒にやろう?」
「ジャンさん……。…はいっ!」
ジャンさんがそういう風に思ってくれているのがすごく嬉しくて。
こみ上げる嬉しさを隠すことなく笑顔を向けた。
二人並んで立つといつものキッチンがものすごく狭く感じる。
(ジャンさん…背が高いもんね……シンクもきっと低いだろうから使いづらいだろうな…)
そんな私の心配をよそに、ジャンさんは楽しそうにボウルの中身を混ぜてくれる。
まくった袖から伸びる引き締まった腕。
ほどよくついた筋肉が逞しく、いつもこの腕で抱きしめられているのかと思うと胸の鼓動が速くなる。
「…ん?なに?」
「え!?……あ、ううんっ何でもないです…!」
つい見惚れてしまい、自分の手が止まってしまっていた。
顔が熱いからきっと真っ赤なんだろう。
そんな私の頭をジャンさんがいい子いい子と撫でるようにして再び作業を再開した。
(見てたのバレちゃったかな……)
ジャンさんの安定感のある混ぜ方によって、私がやるよりもすぐにしっとりとした生地が出来上がった。
「さすがジャンさん………何でも器用にこなしちゃうなぁ……」
「お褒めに預かり光栄です」
そうしてジャンさんが手伝ってくれたおかげで随分早く明日のパーティーで配るマフィンも完成した。
ひと息ついてもらおうと紅茶を用意しようとしても、それすらもジャンさんがやってくれると言うけど、
「いいからっ、ジャンさんはリビングで休んでてください。今日はお休みなんですから」
「じゃあ……せっかくだから○○○の淹れてくれる紅茶を頂こうかな」
「う……改めてジャンさんに飲んでもらうとなるとちょっと緊張しちゃうんだけど……」
「可愛い彼女の淹れてくれるお茶がなにより美味しいと思うんだけどな」
「っ!」
……“彼女”、とか。
そんな事をさらりと言うジャンさんにいちいち赤面してしまう。
きっといつまでもドキドキして、その度にジャンさんの事が好きになって。
私ばっかりが好きになりすぎてしまうんじゃないかと思う。
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