butler | ナノ
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「お前……っ、もうちょっと早く走れないのかよ」
「…っは、あ、…無茶言わないでください…!しかもすごい坂道……っ」
「早くしないと始まるぞ」
「しょうがないじゃないですか…!リュークさん公務から帰ってくるの遅くなっちゃったんだし……!」
息を切らしながら駆け上がる坂道。
日が沈み、海からの風も少し出てきて昼間の暑さからは解放されたものの、走って駆け上がったおかげで再び汗が噴き出てくる。
「だから……、お前も先に行けばよかったんだよ」
「……だって、リュークさんと一緒が……」
「……え…?」
「な!なんでもないです!ほら早く行きましょう!!」
リバティにやってきて初めての花火大会。
港付近で打ち上げられる花火を見ようと高台の絶景ポイントに向かう。
到着した時には既に多くの見物客。
先に来ているだろう同じ城に仕える同僚たちの姿を探そうとした時、
―ドォン!!という音と共に空が一気に明るくなる。
とたんに周囲から沸き起こる歓声。
「わ、始まっちゃった……!」
「しょうがねーな……あ、あそこ空いてるから行くぞ」
「あ、…はいっ」
リュークが見つけた場所、そこは二人が座るには十分なスペースの石段。
そこに二人並んで腰掛ける。
既に始まった花火はオープニングから華やかで。
次々と夜空に咲く色とりどりの大輪の花。
「キレイ………」
「……すごいな」
二人も夜空を見上げながらすっかり花火の魅力に言葉をなくし。
ふ、とリュークが隣を見ると、
きらきらとした笑顔で見上げる彼女の頬は花火の色が移っていて。
一つ一つ大輪が咲くたびにわぁっと歓声を上げる彼女の生き生きとした表情にすっかり見惚れてしまう。
そんなリュークの視線に気付いたのか、視線を花火からこちらに移す。
「リューク、さん?」
「あ……いや、」
照れくさくなり、持ってきたペットボトルに口をつけ一気に喉に流し込む。
そして再び夜空を仰ぐ。
「キレイですね………」
「ああ……」
「来年も、」
「え…?」
「来年も、見られるかな……」
少し寂しげに、
そう呟いた。
「何で……?」
「もしかしたら、ここにいないかも知れないし………」
リバティは自分の国ではない。
とある手違いでやって来て、メイドとして働いているが、いつか国に帰らなければいけない時が来るかも知れない――
彼女がぽつりと零したその言葉にリュークの気持ちが波立つ。
スカートの裾を握りしめるその手に、
思わず、
自分の掌を重ねた。
―離したくない、ただそれだけだった。
「いろよ」
「え…?」
夜空を見上げたまま。
「どこにも……行くな」
「……いても、いいのかな」
振りほどかれると思ったその手は、
リュークのその手のひらをきゅっと握り返した。
「……行くな」
「……うん」
力強く、再び握りしめ。
離したくない、
離れたくない、
ただそれだけ。
言葉にして伝えたいことは沢山ある。
自分の中に芽生えた彼女への感情はきっと特別なものだ。
でも、
今はこの思いだけがこの掌から伝わればいい、
そう思った。