butler | ナノ
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「相変わらず苦手なのですね」
「クロードさああん…!」
――あの時と同じだ。
案の定来てみれば。
シーツを頭から被り、小さく震えるかたまりがベッドの上に。
ゴロゴロと雷鳴が未だ鳴り響く中、彼女の部屋まで続く廊下をいつのまにか小走りになりながら辿りつき、ノックもせずにその部屋に滑り込む。
停電のせいで灯りの消えたその部屋、時折光る雷が一瞬部屋を明るくするもすぐに暗闇に包まれ、部屋で彼女がいるであろう場所を目を凝らしながら探す。
探す、といってもそれは容易に見つかった。
持ってきたランプの明かりを最小限にし、暗闇の中でも何度となく訪れているこの部屋の家具の配置は記憶済みなので、それを頼りに手で探るようにすれば容易く見つかるテーブル。
そこにランプを置き、そして記憶する足がそのままベッドのある方へ。
シーツを撫でるように手を滑らせ、震えるそのかたまりにそっと手を伸ばして優しくシーツをはぎ取る。
びくっと小さな頭が動いてこちらを振り向くと、
目尻に涙を溜めた○○○がこちらを見ている。
暗闇の中まだ焦点が合わないのか、潤んだ瞳が私を確認するかのように彷徨っている。
その表情に胸が締め付けられ、早く安心させたくて手のひらで○○○の頬を包んだ。
そして、
あの時と同じように―――。
小さな体が弾かれたように私にしがみついた。
「もう……ほんと嫌い……」
「まあ……あまり好きな人もいないと思いますが」
「どうしてあんな音がするんだろう……お腹に響いて耳がツーンとして…自分の体に雷が落ちてきたみたい…」
しがみつく○○○の背中を上下に優しくさすり続ける。
同じように私の背中に回した○○○の手がぎゅっとスーツを固く握りしめている。
少しずつ○○○の体の緊張が解け、力が抜けていくのが分かる。
それでも変わらず○○○の背中をさすり、もう片方の手で艶やかな髪の毛を撫でていく。
「…あの時も、」
顔を少しだけ上げ、私を見上げる○○○。
「クロードさん、ずっと傍に居てくれましたよね……」
「…そうでしたね。出て行こうとした時の貴女の必死で泣きそうな顔が忘れられません」
「…だっ、だって!!あの状況で一人にされるなんて考えただけでも怖かったし…!!」
「……あの頃から…、放っておけなかったんですよ……貴女が」
「クロードさん……」
「……自制が利かなくなりそうで貴女の目を見る事ができませんでした…」
まだ想いを通わす前。
ノーブル様の別荘で○○○をもてなした時の夜、今夜のような雷で停電が起こり。
別室で他の執事達と次の日の準備をしていた時だった。
その場にいた皆がすぐに○○○の事を案じただろう。
きっと私が訪ねに行かなくても誰かが動いていただろう。
でも、誰よりも先に、
自分が○○○の元へ駆けつけたかったのだ。
前もって緊急時のランプの位置を確認していた私はすぐさまそれを手に取り、
誰よりも先に○○○の元へ走った。
「あの時は雷が収まるまでずっと傍にいてくれて、私の他愛もない話に付き合ってくれましたよね…」
「そうでしたね。雷が鳴る度に跳ね上がって小動物みたいでしたよ」
「そ、…そんな事ないです……っ!!………ね、クロードさん、」
「はい」
「今日も……ずっと居てくれますか?」
その不安を全て私が取り除けたら――。
「……勿論、そのつもりです」
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