butler | ナノ




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さすがに夜は少し冷え込んでくる季節。
マントを羽織っているとはいえ、その下はノースリーブのワンピースなので少し寒くなってきた。


もうこのまま部屋に戻ろうかと思ったとき、こちらに向かってくる足音。


「やっと見つけた…」
「ジャンさん……」


白い息を吐きながら駆け寄ってきたのは大好きなジャンさん。


「急に会場からいなくなったから探したよ」
「あ、ごめんなさい……」


誰もいない夜の庭園、ジャンさんの口調は執事のそれじゃなく、恋人らしく砕けていた。
途端に私の胸が甘い音を立てる。


「…そういえば、まだこの衣装にした理由を聞いていなかったね」
「あ、の……それは…」


いつの間にか私の目の前に来ていたジャンさんが私の着ているマントの裾をつまんでひらりと揺らす。
顔を覗きこまれ、これ以上誤魔化す事が出来ない気がして意を決してジャンさんと向かい合い、


「ジャ、ジャンさんのハートを盗みたかったんです…っ」


思い切って一気に口に出した。
おそるおそるジャンさんの顔を見上げると、少し驚いた表情のジャンさん。
呆れられてしまったのだろうかと少し不安になりかけた時、


「まいったな……」


ほんのり顔を赤らめたジャンさんが口元を覆い目線を逸らす。
そんな狼狽しているジャンさんに今度は私からそっと寄り添い、


「……だって、パーティーに来ている女性はみんなジャンさんの事見ていたんですもん…」
「みんなって……おおげさだなぁ。そんな事ないよ」
「わ、私にはそう見えたんですっ!……でもジャンさんは……」
「“ジャンさん”は……??」
「わ……私の……っ、」


これ以上は面と向かって恥ずかしくて言えない。
そんな気持ちを紛らわすようにジャンさんの胸に飛び込んだ。


「っと、…○○○?」


いきなりの私の行動に驚きつつも、その腕は優しく私を受け止めてくれる。


「ジャンさんは……私の……大切な……人だから……」
「○○○……」


背中に回された腕に力が込められた。


「俺はパーティーが始まった時から、この可愛い女怪盗さんに心を奪われていたのにな」
「え……?」
「本当なら俺が怪盗になって○○○のことを攫いたいくらいだよ」


顔を上げれば優しい瞳ジャンさんと視線がぶつかる。


「○○○には俺だけを見ていてほしいから」
「ジャン……さん……」


頬をなぞるその指が好き。
焦らしながら触れてくるのはいつものことで、その指先にいつも翻弄されっぱなしで。
触れられた場所から熱を帯びていって、最後に私の唇をそっとなぞる。

ゆっくり、ゆっくりと。


「俺だけのものになって……○○○…」


返事を待たずに指でなぞられたその唇にジャンさんの熱がおとされた。



End




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