butler | ナノ




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ジャンさんの事だから2月14日が何の日くらい分かっているはず。

そんな日にジャンさんがどういった意味で私をデートに誘ったのかは分からない。
特別な意味はないかもしれない。
そもそもデート自体もただ買い物に付き合うとかかも知れないし、暇つぶしなのかも知れない。
考えれば考えるほどマイナスな方向にしかいかない自分の思考。


私の中で少しずつ大きくなっているジャンさんへの気持ち。
ドレスヴァンへ招かれて城を訪れる度に、ジャンさんの人柄や優しさに触れるたび、この想いは膨らむばかりで。

それが「好き」という感情だと気付いたのは最近。

でも、その想いを告げてしまうと今後ジャンさんとの関係が崩れてしまうのではと怖くなる。
ドレスヴァン王国の王室正執事であるジャンさん。
私とは立場も身分も違いすぎる人に想いを告げることなんて、恐れ多い事だと思っていた。


それでも。
“好きな人に想いを伝える”というこの日に後押ししてもらって、勇気をもらって。


私はジャンさんにチョコレートと一緒に想いを伝える事を決めた。




そして、バレンタイン当日―。

昨日、夜遅くまでかかったけど、なんとか出来上がったチョコレート。
レシピの写真のように決して見栄えは良くないけれど、今までで一番上手くできたと思う。
そして今日のために用意したラッピンググッズ。
それらで丁寧に包み、後は渡すだけ。

遠足前の子供の様に早く起きてしまい、そわそわしながら準備をする。
約束の時間よりも大分早く用意ができてしまい、意味もなく部屋をうろうろする。

すると、メール着信を知らせるメロディが流れ、同時に私の心臓も跳ねた。
どきどきしながらボタンを押すと、ジャンさんからのメールで。
アパートの下に到着したとの知らせ。
急いで靴を履き、部屋の鍵を施錠する手も震える私は本当に浮かれているのかもしれない。



下に降りると、車を停め、笑顔のジャンさんが出迎えてくれた。
いつもの執事服と違い、スーツではあるがノーネクタイ。
コットンのシャツが休日の彼にすごく似合っていて思わず見惚れてしまった。


「○○○様?……どうされましたか?」
「あ!いえ…っ、その、いつも執事服でのジャンさんに見慣れているから、今日のジャンさんがすごく…新鮮で…、
……とても素敵で…」
「……」


そっとジャンさんの顔を伺うとジャンさんの頬がかすかに赤く。


「あ、りがとうございます…」


ハニカミながらもいつもの笑顔で微笑んでくれた。
そして、すっと背筋を伸ばして、


「…では、まいりましょうか」


そう言って手を差し伸べてくれるジャンさん。
その仕草がとてもスマートだったので私も自然と差し出されたジャンさんの手に自分の手のひらを添えた。
きゅ、と握られ伝わるジャンさんの体温。
執事の時にはめている白手袋はなく、その指は細長く、掌は大きくて。
私の手をすっぽり包んでくれて、そして温かかった。






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