butler | ナノ
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―どこか懐かしい、そんな感覚。
目の前に立っているのは大好きな大好きな人。
いつも優しい笑顔で私を優しく包み込んでくれる人。
“おいで”という風に両手を広げていつもの笑みで。
吸い寄せられるように、彼―ジャンさんの元へ駆け寄る私。
ふわりと抱きしめられ、大好きなジャンさんの香りを胸いっぱいに吸い込む。
「夢……、か」
窓から差し込む朝日にゆっくりと瞼を開ける。
ジャンさんの夢を見たのはこれで3日目。
会えない日が続き、ジャンさんを恋しく思うあまり夢にまで出てきてしまった。
忙しい彼の恋人である以上、これくらいの事に慣れないといけないのに。
自嘲めいた溜息をもらす、と同時に鼻腔をくすぐるこの香り。
(あ、れ……これって……)
目覚めた時はいつもこれだった。
彼がいなくなってからは毎朝違うものを用意されていたからすごく懐かしく感じる。
そう。
ジャンさんがいつも淹れてくれる紅茶の香り。
(でも、ジャンさんが帰ってくるのはまだ先だったはずだし…でも…)
真意を確かめたくて身を起こす。
「あ……」
いつもの定位置に。
ジャンさんが立っていた。
「おはようございます」
そう言ってニッコリと微笑むジャンさん。
どうして此処にいるのか、とかまだ公務のはずじゃ、とか。
いろいろ考え巡る前に、
私はベッドを飛び出し、夢の中と同じく腕を広げたジャンさんに向かって走り出した。
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