butler | ナノ
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―コンコン
緊張しながらもジャンさんの部屋を静かにノックする。
左手にはカップの乗ったトレー。
雨で冷えた体が少しでも温まれば……と思って、私は厨房を借りてホットミルクを用意した。
程なくしてガチャリ、とドアが開き、そこには――……
(わっ……)
「○○○……?」
扉を開けた部屋の主であるジャンさんは、どうやらお風呂上がりらしくコットンのシャツを羽織っていつものきっちりした姿とは対照的で。
乾いてない髪の毛や、ネクタイを外して少し開いた襟元など、普段見られないジャンさんの姿に思わず見惚れてしまった。
「あっ…あの……体冷えちゃったかも知れないから……これ……」
赤くなる顔を誤魔化すように俯きながらトレーをジャンさんの前に差し出す。
「ホットミルク……?○○○が淹れてくれたのですか?」
「はい…」
「……ありがとう…嬉しいよ」
「……じゃあ、あったかくして寝て下さいね」
「え…?もう?」
「……えっ?」
「せっかく○○○が来てくれたのに……俺としてはもう少し一緒にいたいんだけどな」
「ジャン、さん……」
ジャンさんが体をずらしてドアをもう少し開け、どうぞという風に促してくれる。
恥ずかしいような、それでもまだジャンさんと一緒にいられると思うと嬉しくなり、私は笑みをこぼしながら部屋に入っていった。
「はぁ……あったまるな…」
「ふふ、良かったです」
窓際に備え付けられた二人掛けのソファーに隣同士に座る。
時折肩と肩が触れ合うほどの距離。
触れる箇所からジャンさんのぬくもりが伝わって来て、今ここにいる事にすごく幸せを感じる。
毎日遅くまで仕事をしているジャンさんとこうして一緒にいられる時間も少なくて。
だからこそ今何気ないこのヒトトキがとても嬉しい。
ホットミルクを少しずつ味わっているジャンさんの横顔をそっと見つめた。
窓の外は相変わらず雨音が絶えない。
「明日は晴れるといいな……」
手持無沙汰な私はクッションを抱きしめ、雨が打ち付ける窓を見上げながら呟く。
「そうだ、明日の休み。○○○はどうしたい?」
「うーん…でもジャンさんも久しぶりのお休みだからお出かけすると疲れちゃうんじゃ……」
「全く……どうして君はそうやって遠慮するのかな…」
「だ、だって……」
サイドテーブルに飲み終えたカップを置き、ジャンさんがこちらに体を向ける。
そして私が抱きしめていたクッションをそっと避けるとぎゅっと私の掌を握りしめてくれた。
「俺は、どんなに疲れていても○○○と一緒にいることであっという間に疲れなんて吹き飛んでしまうんだよ?
だから………もっと我儘言ってごらん。……どこか行きたいところとかない?」
「行きたいところ………、ですか?
…………じゃあドライブに…行きたい、かな……」
思い切ってそう言うと満足したようにジャンさんが微笑む。
「よし、そうしようか。どこがいいかな……展望台に行ってもいいし……新しく出来たショッピングモールに行くのも……ックシュン!!」
「ジャンさんっ、…ほら髪の毛まだ濡れてる……風邪引いちゃったら行けなくなっちゃうんですから………」
ジャンさんの肩にかかってるタオルをとって頭にかぶせ優しく拭き始めると、そのままされるがままにこちらに頭を向けてじっとしているジャンさん。
「じゃあさ………」
「はい?………わっ!」
いきなり腰を引き寄せられ、そのまま私はジャンさんの膝の上に。
「○○○に温めてもらおうかな…………」
「……えっ…」
ドキリ、と胸の奥が高い音をたてる。
タオルから覗く瑠璃色の瞳がまっすぐ私を捉え、
そしてジャンさんを纏う空気が変わったのが分かった。
私の鼓動はこれ以上ないくらいに速くなる。
「明日…………ドライブ、行きたいんだろう?」
「う、ん……………」
それが何を意味するのか。
思考よりも先に体に熱が集まるのが分かって。
吐息交じりに囁くジャンさんの顔がゆっくりと近づき、誘われるように瞼を閉じれば甘い夜の始まりを予感する口付けが降りてきた。
20120612
…………………………
多分続きます←
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