明け方の海岸沿いを、車で飛ばす。
「…ふう、これなら何とか見つからない内に城に戻れるかな。」
腕時計をチラリと見ながら、ジャンは小さくつぶやいた。
城内で、誰にも会わずに、部屋に戻る道筋は熟知している。
先ずは、彼女を無事に部屋に…。
幼い頃身につけたとある知識と技術が、まさかこんな風に役に立つなんて。
ジャンは少し自嘲気味に笑った。
その視線の先では、ジャンの上着をかけた紗良が小さな寝息をたてている。
主であるジョシュア王子にも物怖じせず、意見を言えるのに。
キミに対して…俺はどうして少し臆病になってしまうんだろう。
数刻前まで、二人きりで眺めた朝日。
抱きしめた小さな肩の温もり。
さらには、その直前の…唇が触れそうな位に近づいた紗良との、距離。
…あの時、クラクションが鳴ってなかったらきっと俺は−。
「…幸せになってみても、良いかな…?」
このあふれそうな想いを伝えれば紗良は、とびきりの笑顔をジャンに見せてくれるはずで。
ずっと、ずっと。
裏切りを続けてきた自分には、恋をする資格などは無いんだと。
それでも、彼女に…紗良に出会えて、一歩前に踏み出してみたくなった。
駐車場の目立たない場所に車を停める。
「紗良さん、着きましたよ?」
そう言って、ジャンが肩を叩くと。
「んっ…。あっ、私ったらまた寝ちゃってっ。あれ、この上着…?」
ジャンの上着がかかっていることに気づいた紗良が、頬を朱く染めた。
「大切な人に、風邪を引かせるわけには…いかないでしょ?」
「えっ…?」
「フフッ、何でもないよ。さあ、急がないと。」
真っ赤になって戸惑う紗良が愛らしくて、さっきの続きをしてしまいたいのはやまやまだけれど。
無情にもタイムリミットは刻々と迫っている。
「さあ、急ごう!」
貸していた上着を紗良から受け取って羽織ると、その小さな手を握り締めて、ジャンは駆け出した。
−今年一番の目標は、案外早く達成しそう…かな。
そんな事を考えながら。
−FIN−
→管理人より♪
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