一年のうちの、たった一日の特別な日。
あなたがいるだけで、それはスペシャルディ。
―――ピンポン
「はーい…」
来客を知らせる呼び鈴が鳴り響く。
部屋に必ずついている呼び鈴が鳴ることはとても珍しいので、一体誰だろうと頭に疑問を浮かべながらドアを開く。
「紗良様、ご無沙汰しています」
「えっ…!?じゃ、ジャンさん!?」
ドアを開ければ、そこにはドレスヴァン王国の執事、ジャンさんが立っていた。
「お久しぶりです…。えっと…」
ジャンさんには、ドレスヴァンでお世話になっていた時に、何かと面倒を見てもらっていた。
本当に親切にしてもらい、出国の時には正直離れがたいと思った淡い恋心を抱く相手でもある。
「紗良様、突然ではありますが、本日のご予定は?」
「予定…ですか…?」
頭を捻って考えなくとも、今日の予定はわかっている。
あとでケーキでも買いに行こうかなと思ったくらいで、特別な予定も、特別な来客も予定していない。
“何もない、平凡な一日”
「特に予定は無いですけど…」
「よかった…!では、紗良様のお時間を私がいただいても?」
「あ、はい…」
何が起きているのかわからないが、こうしてジャンさんと過ごせるのならラッキーとすら思った。
(だって、今日は…)
何もないけど、自分にとっては“特別な日”
「では、参りましょうか」
「はいっ!でも、ドコへ…?」
「それは、お楽しみ…ということでどうでしょう?」
「ふふっ、じゃあ聞かないでおきます」
そのまま、車へと乗り込む。
「なんだか新鮮です…」
「そうですね。紗良様を…というより、この席に誰かを乗せたことがないので、私も新鮮です」
見慣れた街並みを走り抜けていく車内で、ふと思うのは慣れない座席にエスコートされた自分。
(これって、プライベート…なのかな?)
私が座るよう促されたのは、ジョシュア様の隣に腰を下ろしたあの日のように、後部座席ではなく。
(助手席…)
自分に都合良く考えては、勝手に早まる鼓動。
(うぅ…なんだかドキドキしてきた…)
途端に、狭い車内に二人きりだということを思い出して、熱が顔に集中しているのを感じる。
私はそれをごまかすように、外の風景に目を向けるのだった。
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