オリオンとエレフの悪戯日記





はじまり


 今日は、珍しくあいつが神殿に篭っていやがったんで、親切心で外から閂をかけてやった。
 何せ腐っても神官なんだから、神に祈りを捧げる間は誰にも邪魔されたくないと思うだろ?
 それなのに、あいつときたら跪いて一心に祈りを捧げてると思ったら、すぐに立ち上がりやがった。
 とっとと出て行こうとしたみたいだけど、そこはほら、鍵かかってんじゃん?かけたの俺だけど。とにかく開かないもんだから真っ青になっちまいやんの。
 それから一生懸命扉を叩きながら情けない声上げてさ。「誰ぞ〜」って。おっかしかったぜ。でも神殿なんて恐れ多い場所、滅多に人なんか来る訳無いから、暫く一人で喚いてたぜ。
 まあ、いつもなら見張りの兵が神殿の入り口にいる筈なんだけど、たまたま交代の時間だったせいでいなかっただけだから、その内戻って来た兵に助け出されたんだけどさ。
 その後そいつらに喚き散らしててさ。犯人探しが始まりそうだったから、見付かる前に戻って来たって訳。

* * *

「………」
「あれ?どうした、面白くなかったか?」
「…そうじゃなくて」
「なくて?」
「何でその一部始終を知ってるんだ?」
「ああ、何だそんな事か。俺さ、此処じゃ結構古株なんだよね」
「それは、前に聞いた」
「そうだっけ?まあいっか。とにかく、長くいれば見えて来るもんもあるんだよね。例えば…」
「例えば?」
「抜け道とか、覗き穴とか?」
「……」
「だから、あいつの様子も神殿の天井に開いた穴から見れたってわけよ!」
「…に……」
「ん?見直したか?」
「自慢になるか!道理でくっだらない情報ちょくちょく拾ってくると思ったら!!」
「何だよ、でも面白いだろ?それにさ、いつもあいつにねちねちやられてんだ、少しぐらい鬱憤晴らしても良いと思わねぇ?」
「うっ、それは…」
「だからさ、今度は一緒にやろうぜ!」
「………か、考えとく…」
「おう!」






その2

 エレフと一緒に木の上でサボってたら、たまたまあいつが通りかかった。相変わらず昼間っから酒でも呑んでたんだろうな、宵の口だってのにふらふらじゃん。まったく清廉潔白な神官様が聞いて呆れるぜ。
 よし、予定変更。
 ほんとはやりたい事もあったんだけど。丁度良いネタもあることだし、ここはエレフのデビューでもあるしな。派手にいくべきじゃね?
 さあエレフ君、存分にやってしまいたまえ。あの神官様の酔いを醒ましてやろうではないか。
 ……ってお前、俺より酷くねえ?いくらなんでも、それ一気に降って来たら俺だって泣くって。あーあ、ご丁寧に最後の一匹まで。
 ほら見てみろよ。ありゃ確実に服ん中に入ったね。馬鹿みたいに必死になってるぜ。あ、かなり涙目になってる。何だよ、神官様の威厳形無しだな。てか元から無かったか、そんなの。「誰ぞ〜」って叫び出したし。
 お、皆集まってきた。流石にこれだけ騒いでちゃ無視できないもんな。ご苦労さんなこって。
 おいエレフ、面倒になる前に行くぞ。

* * *

「あー面白かった、どうだった?エレフ」
「……」
「おい、どうした?怪我でもしたか?」
「…結構……」
「うん」
「すっきり、するかも…」
「だろ?でも今回は、ちょっと予定が狂っちまったけどな」
「予定って?」
「ほら、折角苦労して集めてたんだからさ、もっと有効的に使いたかったなって」
「例えばどんな?」
「ん〜そうだな、例えば―――とかさ。元々こっちで行くつもりだったんだし」
「よし、もう一度集めに行こう」
「わ、待てって。二番煎じはばれる可能性が高いんだって」
「でも…」
「慌てんなって。ネタならそこらに転がってんだし、その内またやれば良いんだよ」
「そういうもの、なのか?」
「そーゆーもんなの。ま、そこら辺の事はこのオリオン様に任せなさいって」
「……」
「その代わり、やられた分以上に仕返しさせてやるからさ」
「……分かった」
「さあ、次はどうしてやろうか?」






その3

 さて、本日もお楽しみの時間がやってきたぜ!
 まあ、誰かさんにとってはそうじゃないだろうけどな。
 取り敢えず、今日はいっちょ古典的なネタで行ってみるか。え?それは何かって?まあそれはやってみてのお楽しみって事で。おいエレフ、ちゃっちゃと来いよ。
 さあ、あそこに見えるのが我らが宿敵、変態神官の部屋だぜ。大丈夫大丈夫、木の影になってるからあっちからは見えやしないって。
 あ、エレフ。そこの紐取ってくれよ。んで、端をそこに結んでっと。
 あいつすっげー寝汚いんだぜ。何度かあいつが朝慌てて走ってんの見た事あるから、間違いないって。
 ほら見てみろよ。案の定、碌に身なり整えないで出てきやがった。
 さあエレフ君。賢い君の事だから、後は何をすべきか、気が付いている事と思う。準備は良いかね?
 よし、ほら……今だ!
 やっりー、大成功!あっはっは。樽の神官様は良く転がるなー。転がりながらだから、「誰ぞ〜」もビブラートかかってるぜ。いやー愉快愉快。
 結構下まで行ったな〜。それにしちゃいやに元気だけどさ。
 まあ、あの分じゃたいした怪我はしてないだろうな、残念。
 そんじゃ、朝飯食いに行きますか。あんなの相手にしてたせいで食いっぱぐれたりしたらことだからな。
* * *

「ふっふっふ、どうだいエレフ君。俺様のこの鮮やかな手並みは」
「手並みって、指示しただけじゃん」
「何を言う。俺がいなかったら、あんなの思い付きもしないだろ?」
「それは、そうだけど…あ、そうだ。聞きたい事があるんだけど」
「珍しいな、よしよしこのお兄さんに何でも聞いてくれたまえ」
「坂を転げ落ちていくようにするのが、古典的な悪戯なのか?」
「いや、あれはあくまでもおまけってやつさ。本来は、注意力散漫になった相手を、転ばせるのが主な目的なんだよ」
「ふーん」
「でもまあ、それを更に面白く出来たのは、俺様の手腕だけどな」
「自慢になんないし」
「だまらっしゃい。楽しければ良いんだよ。こんなとこで生きてくのに、それなりの楽しみが無かったらやってけるかっての」
「それは確かに」
「だろ?だからさ」
「だから?」
「これからも、神官様には良いおもちゃでいてもらわないとな」
「…今顔見たら絶対噴き出しそうな気がする」
「今日ぐらいはおとなしくしてんだろ」
「だと良いんだけど」








 無邪気に酷い子供達の華麗なる変態イジメ。そして続きものでした。






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