いっかいめの襲撃のあとに
「一人一個ずつだよっ☆」
「みんなの分、あるからね!」
クラスの皆も疲れてるだろう。けどそんなこと全然カオに出さない。
爆豪くんと緑谷くんは、まだ意識が戻らない──
あちこち傷だらけで骨も折るような、酷い、怪我だった。
ううん、不安とか疲れは、動いたほうが消し飛ぶ。炊き出しのお手伝いをして、非常用備品を配って。そうだ、鍋を洗うのだって、私の個性でできる。真水は節約すべきだ。
「あ、待ってください委員長……その毛布、ダニ布団になってるかもしれません。浄化します」
「ダニ、ブトン……君は時々言葉のチョイスがアレだな」
「そうですか?」
浄化を施しながら、真夏でなくてまだ良かった、と不謹慎ながら思う。真夏だったら、やおももいいんちょと上鳴くんに加えて、轟くんも夜通しフル稼働だっただろう。戦力的にそれはやばい。
脂質を削って顔色の悪かったいいんちょとウェイってた上鳴くんは、大丈夫だろうか……
「あ、そういえば皆さんお風呂、入れませんよね。よし、ここは……一肌、脱ぎましょう」
避難所には、島民全員が入浴できるほどの設備はない。ここも私の出番だ。
広範囲の浄化はやっぱり脱がないとできないから、……頑張らねば。大丈夫、誰かがちゃんとシュリィって呼んでくれる。──いや待てよ、私の知名度ってどうだろう。恥ずかしいけどアピるしかないぞこれは。
着ぐるみを脱いで、自己紹介をする。堂々と、胸を張れ!
「──皆さんご存知、浄化の個性の着ぐるみこと、シュリィです。私が銭湯の代わりになります」
「……エッ、シュリィだ!?」
「あんた、タレントさんだったんさー!?」
……ざわわ、ざわわぁ、、
ハッ、いけない。
現実逃避で皆さんのどよめきがトウキビ畑な歌詞に脳内変換されてしまった……!?
でも良かったぁ知名度あった、ありがたやああああ!
「変な着ぐるみって思ってて悪かったねぇ、ありがたいわぁ」
「これ、ここに来るためにニューオーダーしたヤンバルクイナさんなんですよ」
「どうみてもアガチーには見えんさ……」
「なんかシュリィイメージと違った……」
辛うじて鳥類、模様でギリギリヤンバルクイナに見えなくもない。そんな感じのこの着ぐるみは機動力重視でサクサク歩ける。あと、ほんのちょっとだけ空が飛べる。
時刻はもう21時すぎ。雄英の体操服姿になって個性を開放しながら、お布団の隙間を静かに縫って歩く。
浄化するのは、身体や衣服の物理的な汚れだけ。風呂上がりの父さんをイメージして……加減して……大丈夫、できる……
驚きの声や喜びの声。
好奇の目や憧憬の目。
それらを全部、冷静に受け止めながら、ゆっくり歩く。
左右されてはいけない。怯えたり動揺してもダメ。
端から端まで浄化し終わって、見渡す。
泡を噴いてる人は、いない。穏やかな、さっぱりした空間と人々がいるだけだった。
うん、良かった、できた。
「!ケロ……! 泥梨ちゃん、緑谷ちゃんと爆豪ちゃんの意識が戻ったの。作戦会議をしましょう」
着ぐるみを脱いで、しかも薄く微笑んでいた私を見て、蛙吹さんは驚いた顔をした。呼びに来てくれたらしい。
「何か良いことが、あったのかしら?」
「いえ、私、……ちゃんとヒーローしてるなぁって思って。こんな状況なのに、喜んじゃだめですね」
「そんなことないわ泥梨ちゃん。自信がついたこと、頑張れたこと。それを否定しなくていいのよ」
諭すように言ってくれた蛙吹さんは、大きな目を細めて優しく笑った。
「ありがとうございます、蛙吹さん」
「……梅雨ちゃん、と呼んで」
「つゆ、ちゃん。……では私も、蓮花と」
「ええ、蓮花ちゃん」
あ、むず痒い。すごく、こそばゆい。じわじわ心をくすぐる感情のまま微笑む。
大人たちの不安を察して泣いていた赤ちゃんの泣き声が、ぴたりと止んだ。
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