君とずっと | ナノ


 城の制圧、そして。

護衛のホムンクルスは、相も変わらず無機質な魔術を繰り出してくる。戦場と化した広間で、当主はその陰で大掛かりな攻撃魔術を構成しているらしい。

その翁のいる最奥まで、あと15メートル。


けれどそこへたどり着く前に魔術は完成して、天井と床面いっぱいに魔方陣が浮かび上がった。まばゆく煌めく光の氷柱が、私目掛けて一斉に襲ってくる。

アインツベルンって魔術での攻撃不得手なんじゃなかったっけ。発動までに結構時間がかかっていたから得意とは言えないのか。
けれどこれは一本でも当たったらもう残りを避け切れない。一度だけ回避に失敗して串刺しエンドをくらったことがあるんだな。

愛用の魔術礼装、大鎌。名前はクレセントサリエル。
真っ黒い刃は見た目どおりの重みで、身長と同じくらいのそれを振り回し、躱して去なして、捌いて捩じ込むように身体を踊らせて走り抜ける。すごいよね、これだけ動いても息が上がらない。逆に大丈夫か? この身体。


と、私の両脇を、緑の閃光が後ろから疾ってきて、前に立ちふさがった戦闘型ホムンクルス先輩たちが倒された。
マジか帝王、援護してくれるとか……いや、明日は我が身か。
今裏切ればこうだ、って示されているようだ。実際そうなんだろう。

かくして私は、歴史を感じさせる大理石の床に盛大なヒビを入れて踏み込み、大鎌を振り上げ、当主であるゴーレムの首を勢いよく落として機能を停止させた。

噴き上げる体液が周囲を汚す。ごろんと転がった大樹のような老齢のお顔は驚愕と焦りと絶望に満ちていた。
こんな顔できるんだな、と毎回思う。
お疲れ様アハト翁。すまんアハト翁。
アインツベルンは帝王が継いでくれるってよ。アイリスフィールとイリヤスフィールは私がなんとかしよう。

それもこれも、あの日の先に進めないとどうにもならないんだけど。

色々考えながら大鎌についた血を振り払っていると、帝王が悠然と後ろから迫ってきた。

「こいつは貴様の産みの親だろう。どうだ、気分は」
「特に親子としての感慨はありません。産み出されておよそ半年ですが、育ててもらったわけでもないので」
「半年……?」

それならよっぽど初代様の方が親らしい。この身体は彼女の後継機だしアドバイスくれるし応援してくれるし。考えたら初代様、ママみがすごい。もし次戻ったらママって呼んでみようそうしよう。


さて、中枢AIシステムに魔術で自分を繋いで、ありとあらゆる知識をダウンロードする。
それから、戦闘用に据え付けられたこの身体の演算機能を拡張させ、生き残ったホムンクルスに魔術的に侵入接続して調律を施す。
痛くないだけで相応の負荷がかかっているのかもしれないけれど、痛くないのをいいことに一気に仕様を変更させた。

ついでに中枢AIの管理者上書きしたった。
これで完全にアハト爺バイバイ乙。
今や私はホムンクルスクイーン個体と言っても過言でない。

「という状況です、簡単に説明すれば、制圧しました」
「聞き慣れない言葉ばかりだが概要は理解した」

うっそ本当に私の説明で理解できたのか。帝王頭良すぎんか? 時代先取りしすぎじゃない? まだまともなパソコンもない時代ですよ?


ところでここまで来て、やっと私にライフカードが1枚できる。

「ホムンクルスの鋳造方法と、それから、世の真理に到達するための一片、小聖杯の作成方法を手に入れました」
「……最初からそれが目的か」

そうでもないけど安全確保はしたいかな!

「とんでもない。私を所有いただければ、この城に詰まった叡智はすべて貴方のものです」

心を読まれてるんだろうか、彼の瞳の奥で炎が揺れた。

「……先程は助けていただきありがとうございました」
「喰えんやつだ」

帝王は、血飛沫のかかった玉座に触れて何やら唱えはじめ、しばらくして玉座が淡く光ると、こちらを向いて一言発した。


「来い」


傍に立って冷酷端正な顔を見上げる。
しかし改めて顔ちっちぇーー脚長ぇーー。え? 何頭身……?


「アリアフィーツァ、貴様の玉座だ。触れてみろ」


言い方よ。
これは帝王ジョークなのか。お茶目なところあるよね、最初どれだけビックリしたか。


つまりは、どうやら玉座をポートキーにしたらしい。


言われるままに玉座に触れると、ぐわんとフェリーか何か、船で揺られた時のような変な浮遊感に連れ去られて、瞬きする間に鬱蒼とした森に突然放り出された。

後から涼しげな顔で帝王もすぐ来られましたけどね。


「私の領域だ。普段はここを拠点とする。ついてくるがいい」
「マイロード」

第一関門は突破した。ここからしばらく死ぬようなことはない。できればセーブポイントここにつけてくれんかな誰か。

「改めまして、配下に加えてくださり、身に余る光栄です」

呼び止めても歩みを止めることのない背中に礼をした。



そんな距離感から始まって、年月は流れるように過ぎゆく。



「いやはやそんなこともありましたね」
「お前は最初の品位をどこに落としてきたのだ……」
「本質を見抜けなかった貴方のミスでは」
「アバタ……」
「ごめんなさい、磔の方にしてください」


良い実験材料であり、錬金術知識の書庫である私は、メイドらしく屋敷の雑用をこなし、時に任務に同行して斥候や収集のお手伝いをするなかで、かなり砕けた接し方をしても赦されるようになった。
恐らくペットか何かだと思われている、……気がする。
闇の勢力の皆様との日常は、また追々。


「それで、日本のどこだ。地名は」
「冬木市、柳洞という名の寺の地下奥深くに、大聖杯の魔法陣があります。それから駒を1名調達したく」


そろそろ時期がくるので、未来の友人を拉致しに行くついでに日本へ大聖杯観光しに行きます。ん? 逆か?

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