色彩埋葬部屋


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6月の手


新緑が深緑に変わりつつある
私は右の手で山をなぞる
サワサワと柔らかい
葉と枝の感触を想像していると
そのまま手のひらが
緑色に染まっていく
梅雨前に手のひらが染まる
雨が降ったら私の手は
何色に変化するんだろう
かぜが通り抜ける
サラリと音がした




06/06




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脳内麻薬


ドロドロに溶けた私の心は
真黒に濁りとぐろを巻いて
どこか拠り所を探している
それは決して完成することのない
ジグソーパズルのピースの様に
当てはまる何かを求めている
例えばそれは死んだ魚の瞳
食い残された子羊の頭蓋骨
齧られた真っ赤なルージュ
地図から消えた村
昼を食う見えない獣
ずっとずっと遠い春
何かはわからないけれど
欲しくて欲しくてたまらない部分
埋めたくて埋めたくて
辺りを漁って見渡して
だらしなく口を開けて
舐め回して飲み込んで
いつまでも浸っていたい
とめどなく流れ落ちる
ハチミツのような粘着物
脳の痺れるような刺激物





03/24




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浴槽


雨降りしきる夜更けに湯船に浸かるというのは
なんと心地よいものか。
天井で弾けては落ち、弾けては落ちを繰り返す雨音に耳を傾け、
ゆったりと水溜まりに体を浸す。
規則正しく軒から落ちる音に合わせ
いくつもの銃弾が私の本日の戯言を貫くと、
滲み溶けて水溜まりは出がらしとなり、私はひとつ笑うのだ。

安物の入浴剤を落とせば
たちまち芳香が鼻をつく。
どれだけ着色で誤魔化そうとも
安っぽさは一つも埋められやしないし、
薄汚れた出がらしは所詮出がらしのままなのだ。
紫色の湯は煮えきらぬ私を優しく包み
耳をすませと戯れついてくる。
思い出したように外を見やっても、
月さえ見えぬ宵の更けよ。

あぁ栓を抜き流れ落ちていく私だったものよ。
明日は雨となって再び私を打ち抜くのだ。




12/10




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無題


「元々考え方が皮肉れて意地の悪い人間は、どんな風に言えば相手が傷つくのかちゃんと理解しているからまだいいんだよ。手に負えないのは元は素直でまっすぐな人間なのに意地悪くなろうとした奴。あいつらは人を傷つけることに慣れてないから、詰が甘くなって不格好になるんだ」
「急にどうしたの」
「お前は後者だと言いたいんだよ」
元から意地の悪い彼はにっこり笑った。






07/25




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無題


君の耳に手を当てる。
聞こえますか?
聞こえてますか?

どんなに言いたい言葉でも
君に言いたい言葉でも
もっと向こう側に向かっているのは
いつでも君の方だから
君が欲しいと思ったものを
手渡すことのできない僕が
独りわびしい夕焼けぞらに
水仙の花の香を探しても

聞こえませんよ、と小さく笑った
君の笑顔が焼き付いて。





06/25




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