「新しい名前は誕生日からつけたの?」
「……へ?」
「ヤマト、だっけ。あの子達にそう呼ばれてるの聞いたよ」
「……ああ。いや、多分違うんじゃないでしょうか。綱手様にそう名乗れと言われただけですから」
「なんだ。自分で決めた訳じゃ無いんだね」
「はい。……ていうか、先輩ボクの誕生日を覚えててくれてたんですね」
「覚えてるに決まってるでしょ。元上司だもん。部下の事なら何でも知ってるよ」

そう言って先輩は唇を尖らせた。
もしかして今日は誕生日だから、久しぶりにこの人に会えたんだろうか。
考えすぎかもしれないけれど、彼女を昼間に偶然見かけることなんてこれまで無かったから、もしかして、と思ってしまう。

空になった紙コップを揺らしながら、先輩はテラスの手すりに凭れている。日の光の下にいる彼女に見慣れていなくて、ボクは目を細めた。

「……どう?新しい仲間は。慣れた?」
「そう、ですね。年下と組むのはあまり経験が無かったので最初は不安でしたけど。流石に慣れました。ちょっと騒がしいけど、なかなか面白い子達なので」
「ふぅん……。隊長とか呼ばれちゃってるもんねぇ。ヤマト……ヤマトかぁ」

なんとなく、先輩の顔がつまらなそうに見えたので

「もしかして、寂しがってくれてたりします?」

そういうと、彼女はきょとんとして、それから、少しして、笑った。
眉を下げて、困ったように。

「……そう、かもね」

元上司と元部下、それ以上でもそれ以下でもなかった。
部下の事ならなんでも知っている、と先輩は言ったけど、じゃあ、あの頃からずっと変わらないボクの気持ちも知っているんだろうか。

「ねえ、テンゾウ」
「はい?」
「ヤマトで良かったね。ハトとかにされなくて」
「え?」
「平和な感じになっちゃうし」

くすくす笑いながら先輩は紙コップをゴミ箱へ捨てた。
そして、もう行ってしまいそうになったので。

「待ってください!」
「ん……?」
「どうして何も言ってくれないんですか。今日が誕生日だって知ってるんでしょう」

だから今日、会えた訳じゃないんですか。
やっぱり、ボクのうぬぼれだったんですか。

まるで駄々をこねる子供のように、先輩を引き留めたくなる自分が恥ずかしくなって、少しだけ、顔が熱くなった。


「祝ってなんかやんない」
「ど、どうして」
「テンゾウのくせに私を寂しがらせるから」
「テンゾウのくせにってなんですか……」

笑いながら背中をむけてしまった先輩を慌てて追いかける。

「ボクも寂しいです。あなたと会えなくなって」
「……」
「あなたが寂しいって言ってくれて……嬉しいです」
「むかつく」

誕生日におめでとうどころか、むかつくと言われているのに、嬉しいなんて。ボクは変だろうか。

「大体、会えなくなったなら会いにくればいいでしょ」
「会いに行っていいんですか」
「カカシには会いに行ってるらしいじゃない」
「それは、仕事上……」
「ふうん……」
「もしかして先輩拗ねてるんですか?」
「……生意気」


そんなやりとりをしながら、先輩のほうこそ、カカシさんとは最近も会ってるのか、と胸の奥が鈍く痛む。


「あのさ……。帰るけどいいの?」
「え……?」
「……もういい。テンゾウの意気地無し」

言い捨てて立ち去ろうとした先輩の手首を咄嗟に掴む。

「帰っちゃダメです」
「……」
「ボクと……デートしてください」

勇気を出してそう言うと
先輩はにやり、とあやしく笑った。

「良くできました」

子供扱いされてるみたいなその言葉が、ひどく懐かしくて、なぜこんなに嬉しいのだろう。きっと一生、ボクはこの人に叶うことはない。



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着地点が見あたらないから終わる!
テンゾウお誕生日おめでとう…!
20170810/蒼村咲


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