梅雨限定の紫陽花寒天をスプーンで掬ってうっとりと見つめる。紫と水色の寒天は目にも涼しげで、とても可愛い。

「せっかくだからイタチも限定スイーツにすれば良かったのに」
「俺はこれが一番好きだ」

イタチはいつもの三色団子をもぐもぐ咀嚼している。同僚であり、昔からの友達でもあるイタチは、結構綺麗な顔立ちをしていると思う。クールなやつなので何を考えているのかよくわからないこともあるけど、実は甘いものが大好きで、お団子に目がないと言うことを知ったのはいつのことだったか。なんていうか子供っぽくて、ちょっとだけ可愛い。

「梅雨ってじめじめして嫌だけど、こういう限定商品があると心が躍るよね」
「俺は嫌いじゃないけどな、梅雨も」
「そうなの?」

雨のふる通りを、イタチは静かに微笑みながら見ている。私もつられて、細い糸のような雨が地面を叩くのを見ていた。

「最近カカシ先輩と任務一緒になったりした?」
「いや、最近は……」
「そっかー。先輩、長期の任務にでも出てるのかな」

暫くカカシ先輩を見かけていなくて、元気がでない。カカシ先輩は私の憧れの先輩である。紫の寒天を掬って、「イタチ食べる?」と聞いて口の前に差し出すと、イタチは黙ってぱくりとそれを食べた。

「美味いな」
「でしょ?」

イタチと甘栗甘に来るのも何度目になるだろう。たまたま任務帰りに、一緒に寄ってから、なんだかよく二人で来るようになってしまった。

「噂ではカカシ先輩は、甘いものが嫌いらしいんだよね……」
「へえ……」
「先輩と甘味処デート、夢だったのに……」

カカシ先輩と付き合ってるわけでもなければ告白したわけでもないので、完全にただの妄想なんだけどね。イタチは黙ってお茶を飲んでいる。

「カカシ先輩のこと好きなのか」
「好きというか一方的に憧れてる感じ……。カカシ先輩と私が釣り合うわけがないし……でも夢に見るのは自由だよね!」
「……」

イタチは黙ってまた、雨を見ている。

「食べ物の好みは、あっていた方がいい」
「え……?」
「夫婦で味の好みが近い方が、平和だとおもわないか?」
「夫婦って……」

そんなこと想像したことも無いのに、イタチは大袈裟だなぁと顔が赤くなる。あくまでも先輩には憧れてるだけなんだから…!

「つまり、甘いものが好き同士、俺たちの相性は悪くない」

飲みかけていたお茶を吹き出しそうになった。

「え?!」

イタチは店の人を呼んで、弟のお土産にと、大福を頼んでいた。やっぱりイタチって、何を考えているのか時々よくわからない所がある。

「いつもお土産買って帰るよね。弟と仲良いよね」
「ああ。喜ぶ顔がかわいくて、ついつい毎日のように買って帰ってしまう」
「毎日って……サスケくんも甘いもの大好きなの?」
「たぶん、好きなはずだが……」

例えサスケくんが甘いもの嫌いだったとしても、毎日兄がにこやかにお土産を買ってきたら、受け取らずにはいられないだろうなぁと想像してみる。

「このあと何か予定あるか?」
「いや?家帰ってだらだらするだけだけど」
「うちに寄ってかないか。今夜はすき焼きなんだ」
「えっ!?いいの!?」

イタチんちに呼ばれるのは久しぶりだな、と思った。

「母さんも久しぶりにお前に会いたがっている」

ミコトさんに会うのは、去年の夏祭りに浴衣を着付けてもらって以来かも。

「すき焼きかー。いいねぇ。なんかのお祝…」

い、と言おうとして、舌を噛みそうになった。

「あっ……!!!!」
「やっぱり忘れてたか」
「ご、ごめん!!!いや、6月だったなぁとは思ってたんだけど」
「……気にするな。ただの友達の誕生日なんて覚えてなくても仕方ないだろう」
「イタチはただの友達じゃないよ!」

ほんとごめん!と手を合わせる私をみて、イタチははぁと溜め息をついた。

「ただの友達じゃないなら…なんなんだ?」
「もちろん、超友達!!」
「……そんな事だろうと思った」

立ち上がって店を出るイタチをあわてて追いかける。

「ごめんって。……ね、プレゼント何がほしい?」
「……ケーキは自分の好きなのを買ってくるようにと言われている」
「なるほど!!そのケーキを私に買わせてください」

イタチはふっと笑った。


「は!まさか私はケーキ要員で今夜お呼ばれするのでは…?」
「さあな……」

お気に入りの店へ向かって歩き出すイタチの足取りは、何となく楽しそうだった。



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イタチお誕生日おめでとう!
20170609/蒼村咲



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