底に残った残り僅かな白をすくいとってぱくりと口に含んだ。途端、広がる甘さ。喉を通る冷たさ。んんー!幸せ。空になったカップを捨てに台所へ向かう。 冷蔵庫の一番下をガラガラ引き出すと冷気が足先にかかって冷たい。カップアイスに棒アイスにアイスモナカ…次は何にしようと迷っていたら、急に後ろから白い腕が首に回された。「ぐえっ!」と情けない悲鳴を漏らし、慌てて振りほどく。 「な、なにすんのよ!」 「お前さァ、それで何個目よ?」 振り向けば、呆れて細められたカカシの冷たい目。あたしは右手に持ったアイスキャンディーを後ろに隠し、「さ、3個目かな」と返した。 「嘘つけ。もう7個は食ってるでしょ。だからそれで8個目」 「……ちっ。見てたんなら聞くなっての」 「ああ?何か言った?」 「……言ってまセン」 ……怖っ。恋人に写輪眼向けるのやめてください。 「これで最後の一個にするから……」 「ダーメッ!お腹壊すでしょ!」 「7個も8個も変わんないってー。ほら、もう袋から出しちゃったし……」 カカシの鼻先に、開封済みのアイスキャンディーを突き付けてやった。へっへーん、どうだ!秘技☆高速包装剥がし!!(後ろ手で開封しておいただけ) 「はあ、お前って奴は……」 カカシがため息をついた。あたしの勝利は確定したかに見えた。しかし次の瞬間、カカシがパクッとアイスの先端にかぶりついた。 「ああああーッ!あたしの練乳スペシャルがああッ!!」 「−−ッ!何コレ甘ッッ」 当然だ。これはただのミルクアイスじゃない。中に練乳が入っているちょっとリッチなアイスキャンディーなのだ。私の一番お気に入りのアイスを、カカシって奴はぁぁ!! カカシは想定外の甘さに悶絶しながら、ヨタヨタと流しへ向かっていった。人の好きなモノを横取りするからよ! 三分の一以上かじられたアイスを手に、さっきまで座ってた大きなクッションまで戻った。水道水で口をゆすいだカカシも部屋に戻ってくる。ぺろぺろ大事にアイスを舐めているあたしをちらりと見て、もう何も言う気が起きないのか、デスクワークに戻ってしまった。 あーあ、まだまだ作業は続くのね。カカシが机に向かうこと、かれこれ3時間。その間あたしはこうして床に座って、書類を書くカカシの背中をじっと眺めていた。とにかく退屈。退屈でたまんない!! 早く終われぇー。早くあたしに構えー!!カカシの背中に念の篭った視線を向けていたら、カカシがこっちを振り向いた。 「お、終わった!?」 「残念ながら終わって無いよ……。何か凄まじい視線を感じたんだけど」 「……あたしの念が通じたか」 「念!?変な気送るのやめてちょうだいよ」 何さ何さー。こんな可愛い彼女をほっとくからでしょーよ。カカシのばーか!! あたしのいじけた顔がおかしかったのか、カカシはフッと笑うと、「寂しかったからアイスばっか喰ってたの?」と言った。寂しかったっていうか退屈だったからだよーだ。ふん。 「もーすぐ終わるから待ってな」 そう言って、カカシはまた背中を向けてしまった。あーあ。さっきからそればっかじゃんか。 だいたい何で休日まで仕事してんのさ。長かったSランク任務からやっと帰ってきたと思ったら、なっがい報告書書いて提出だなんて。忍って何でこんなに忙しいの。それともカカシがすごい忍だからなんだろうか。……あたしには良くわかんないけど、この里の長の女の人はきっとすっごい意地悪だ。何であたしの恋人ばっかり酷使すんのよっ。 顔も見たこと無い、本来ならば感謝すべき里の権力者を思い浮かべて、クッションをぎゅううと握った。一般人のあたしには忍のコトは良くわかんないけど、忍にだって休日を恋人と過ごす権利はあると思うんだよね。 あー、暇だあ。つまんないー。アイスキャンディーもなめ終わっちゃったし。味がするわけでも無いのに、木の棒をくわえたまま、ぱたんと床に寝転んで天井を見た。カリカリとペンが紙の上を走る音がする。……カカシって何ていうか、ほんとにすごいよな。さっきから全く集中力切らして無いんだもん。それでいて、あたしが何個アイスを食べたか把握しているんだもんね。あー、アイス食べたいよー。でもさっき約束しちゃったしなあ。暇だー暇だー暇だー。そうだ、カカシに気づかれないようにアイスを取りに行ってみよう。一般人のあたしにも気配を消すくらい出来るかもしれない。 でも気配を消すってどうやったら出来るんだ?雑念を追い払うみたいな?とりあえず息は止めるよねえ?大きく息を吸って、止めて、そっと体を起こしてみた。カカシは相変わらず机に向かっている。よし、次は立ち上がって…… 「あ、晴、」 「ぶはッッ!!?」 「何やってんの…?」 び、び、び、びっくりしたあああ。いきなりカカシが振り向いて心臓止まるかと思った。息を整えるあたしを、カカシは不審そうに見ている。 「まーた何か変なコトやってたんでしょ……」 「べ、べっつにぃー?ちょっと修業してただけだし」 「ハァ?修業?」 カカシは椅子から立ち上がると、また部屋を出ようとした。 「な、なに?ドコ行くの?終わったの!?」 「さっきから5分もたってないのに終わん無いよ……。いやね、この間サクラの親御さんに貰った羊羹があったのを思い出して」 「ようかん!?食べる食べるー!!」 はしゃいでるあたしを見て、やれやれ晴はお子様だねぇ、とか言いながら、カカシは優しく笑った。カカシのこういう笑いかたが、あたしは大好きだ。 「……あれ、晴」 「ん?」 何かに気づいたような顔をして、カカシがこっちに歩いてきた。 「……」 「なに?」 黙って顔を見つめられて、きょとんとしてしまったら、急にカカシの手がのびてきて、あたしの顔の輪郭に触れた。 「わ、何、」 「……晴」 「そ、そんなにじーっと見つめないでよ」 憎まれ口を叩きながら、心臓はドキドキバクバクして余裕が無い。付き合ってから何ヶ月たっても慣れないカカシのどアップに赤面しながら、何をされるんだろうって、目を合わせたままで待っていた。 「晴、」 「な、なに、」 「顔まるくなった?」 は? 何て? 「アイスばっか食べてるから、ちょっと顔丸くなったんじゃ無い?」 「――――――ッ!!」 カカシはププ、と笑った。 その笑い方、嫌い!! 何かもう何も言えなくて、あたしは赤面したままカカシの手を思いっきり払った。 なんなのなんなのなんなの!!むかつく!!確かにアイス食べすぎてましたよ!最近なんだか顔もまるくなりましたよ!!だけどカカシがあたしを放置したせいなんだからねーッ!! という逆恨みで頭が沸騰しつつ、やっぱりショックも受けてて、「もー帰る!!」と叫んで帰ろうとしたけど、いつの間にか手を繋がれてて、踏み出した体はおもいっきり反動をつけてカカシの腕の中に収まってしまった。 「あはは、ごめん、」 「笑い事じゃ無いよ!」 「晴の顔がちょっとくらい丸くなっても、オレはお前が好きだよ」 「……ショックだ……痩せるまで会いたくない」 「え、そんなのヤだよ……」 「カカシにまるいって思われてるなんて耐えられないよ!」 「あーあ、泣くなって、」 カカシの方を向かされた。あたしの涙を拭っているカカシは、こんな状況なのに呑気に笑ってる。カカシは全然わかってない。カカシの一言にどれくらいの威力があるか、絶対わかってない。 「晴がアイスばっか食べてるからちょっと意地悪言っただけだよ」 「……」 「ほら、羊羹切ってあげるからもう泣かないで」 「ようかんなんて食べたくない……」 すっかり機嫌をそこねたあたし。カカシがまた溜息をついた。えーえー、わかってますよ!どうせあたしは我がままですよ!可愛く無いですよーだ。 もう愛想つかされたかな……。恐る恐る見上げたら、カカシはびっくりする程優しい顔で笑ってた。呆気にとられてぽかんとしてるあたしの頭を、カカシの手がぽんぽん撫でる。 「晴ってホントに可愛いよね」 「なんでっ……、ほんとは可愛くナイって思ってるくせに」 「思ってないよ」 「思ってるっ」 「可愛いって思ってるよ」 だから意地悪したくなっちゃうんだよね、晴見てると。そんな恐ろしい事を口走りながら、カカシは眉を下げて笑っている。こんの、ドSが……ッ!! でも、あきれられてなくて良かった。と、あたしはこっそり一息ついた。 「……さて、じゃー散歩でも行こっか」 「え!?報告書は?……いいの?」 「とりあえず休憩。先に我がまま姫のご機嫌を直さないとね」 「……」 あたしの怒った顔を見て笑ってるカカシはホントにドS鬼畜星人だなと思った。こんな意地悪なトコも好きになっちゃったんだけどさ。 「じゃー、三丁目に出来たケーキ屋さん行く」 「アレ?痩せるんじゃなかったの?」 「甘いモノが食べたい気分なの!!」 意地悪なクセにあたしのわがままを笑ってくれる、あなたが悔しいほど大好きなんです。 I scream icecream !! だから、ほっとかないでね! end. 090520 |