夢 | ナノ
めりーくりすます
しんと冷えた冬の夜。ストーブを着けたまま、いつの間にか眠っていたらしい。呼び鈴を鳴らす音が玄関から聞こえてきて、目を覚ました。


こんな時間に誰が何の用?
思いあたる人物はたった一人。……今日は忘年会があると言っていたはずだけど。ソファから立ち上がって、時計を見上げる。飲み会を切り上げてくるには、少し早い時刻だ。



「晴ちゃーん、開けて」



その声は少し酔っぱらっていた。今日はどのくらい飲んだんだろう。ドアを開けると、途端に、真っ赤な色彩が飛び込んできた。


「……カカシ?何そのかっこ」
「……えっと、メリークリスマス」
「は?めりー、何だって?……わ!」


カカシは謎の呪文を唱えると、私をいきなり抱きしめた。「ただーいま……」耳元で囁く低い声は、お酒の匂いがする。



「ちょっと!」
「んー。晴ちゃん暖かい」
「はなして。冷たい」
「やだね」


酔っ払いカカシを何とか押しのけて、玄関のドアをしめる。カカシは壁に手をつきながら、ふらつく足で靴を脱いだ。


「その服どうしたの?」
「これはねえ、ガイに貰ったの」


ガイさんて、あの人かな。思い出すだけで濃ゆい、おかっぱの。あの人は、全身緑のタイツだった気がする。


「今度の新作は赤にしたの?ガイさん」
「しんさく?」
「いつもカカシにくれるじゃん。緑の全身タイツ。着ないでしまってるみたいだけど」
「ああ、これは違うよ。タイツには見えないでしょ?」


確かに、ぴったりした服ではないみたいだ。むしろ、だぼっとしていて、一見パジャマのようにも見えるその服は、目の覚めるような真紅で、ふかふかと暖かそうだ。衿と裾だけが白い。黒いベルトをしているところをみると、寝巻というわけでは無いらしい。

でも、頭にかぶった同色の帽子は、どうみてもナイトキャップにしか見えない。ぽんぽんまでついている。


「……似合わなすぎて面白いね」
「そう?せっかく貰ったのに」


結構あったかいんだよ、とかいいながら、カカシはにこにこ笑っている。……酔ってるなあ。

何かの罰ゲームなのかと思ったけど、そういうわけじゃないんだろうか。カカシは、謎の赤装束を脱ぐこともせず、ふらふらと部屋の中へ入っていった。テーブルの上に、何かが入った袋を置いて、椅子に座る。


「それなに?」
「ま!開けてみて」


にこにこしているカカシに言われるがまま、私は袋を覗いた。白い大きな箱が入っている。蓋を開けてみると、中にはたくさんのケーキが入っていた。ショートケーキにチョコケーキ、フルーツが沢山のったタルト、チーズケーキ……他にもいろいろ。いろとりどりの宝石みたいに、きらきらしてみえる。


「すっごい!どーしたのこれ?」
「帰りに、そこのケーキ屋さんで買って来たんだ。全部晴が食べていいよ」


俺は甘いものは食べないからと、カカシは笑いながら言った。私は、どんな顔をすればいいかわからなくなった。


「……なにその顔は。嬉しくないの?」
「嬉しいけどさ……なんでケーキ?」


今日は記念日でも何でも無いはず。甘いものが嫌いなカカシが、何でケーキを買ってきたんだろう。まったく見当がつかなくて、ちょっと怖い。……絶対なんか裏がある。


「何かあるなら早くいってね」

正直に言えば許してあげられるかもよ?
「晴ちゃん……目が怖い」


カカシは頭をかきながら、「謝るような事は何にもしてないよ」と笑った。そうは言っても、今日のカカシは怪しすぎる。まず、その不思議な格好の意味がわからない。


「これはサンタ服だよ」
「サンタ服?なにそれ」
「西の国では、クリスマスにはこの服を着るんだってさ」
「……くりすます?」
「ま、俺もガイから聞いたんだけどね」


そう言うとカカシは、今日の忘年会に突如、全身赤い服で登場したガイさんの話をはじめた。ガイさんは任務で西の国に行っていたそうで、そこで、「くりすます」という行事の存在を知ったんだとか。

「くりすます」は、西の国ではポピュラーなお祭りで、毎年、赤い服を着た、サンタと呼ばれる人が、子供たちにプレゼントを配ってまわるんだそうな。25日がくりすます当日で、24日が、その前日なんだけど、前日の方が盛大に祝うもの、らしい。

ガイさんはサンタ服を沢山買ってきて、お土産だとかなんとか言って、カカシにもくれたんだとか。いつもなら断りそうだけど、カカシは貰ってすぐに、その場で着替えたというのだから、酔っ払いのテンションってほんとに怖いよなあと思った。そういえば、いつもの服はどうしたんだろう。まさか飲み会会場に忘れてきたとか……?


「……それで、ケーキ?」

私、子供じゃないのにプレゼントを貰っていいんだろうか。

「クリスマスイブは、大人も子供も、ケーキとローストチキンを食べるものなんだってさ」


チキンは買ってこれなかったけど、といいながら、カカシは袋から、小さなろうそくをとりだした。赤、黄色、緑のろうそくを、ひとつひとつのケーキに刺していく。火を点すと、ケーキはますます美味しそうに、きらきら輝いた。

酔っ払ってふらふらしたカカシが、閉店間際のケーキ屋さんに入ってくところを想像したら笑えた。しかもこの、真っ赤な服まで着ているのだ。対応した店員さんも、笑いをこらえるのが大変だったに違いない。


「……電気も消さないとね」
「えっ。電気も?」


何か本格的だなあ。まるで誰かの誕生日みたいだ。


「なんか歌ったりするの?」
「歌?」
「はっぴばーすでー♪みたいな」
「うーん、どうだろう。とりあえず、掛け声みたいのはあるよ」
「掛け声?」
「メリークリスマス」


あ、さっきの呪文。

二人で、メリークリスマス!と声をそろえて、火をふきけした。途端に部屋は真っ暗になり、ストーブの赤い炎だけがゆらめいている。一体私たちは何をやってるんだろう、と可笑しくなりながら、電気をつけようと立ち上がると、暗闇の中でカカシにぶつかった。

「わ、ごめん」

笑いながら伸ばしかけた手を、掴まれて、引き寄せられて、あっと思っているうちに、唇が触れた。そのまま、長い、キスをされて、もう、心臓がもたないんじゃないかってくらい、ばくばくした。


「……こ、これも、なんか、あれなの?」
「そう。クリスマスだから」
「そ、そうなんだ」


クリスマスって、不思議な行事だ。子供たちのお祭りなのかとおもえば、そういうわけでもないみたいで。いつまでたっても慣れないキスに、ドキドキしていると、カカシがさっきみたいに、私を抱きしめてくれた。部屋が暗くて良かった。いま、自分の顔はけっこう赤くなってる気がする。電気がついてたら、カカシに笑われてたかも。


「ドキドキしてるね」
「……カカシも」

真っ暗だから、お互いの心音が余計に響く。背中にまわされた手がきつくなって、窓の外、どこか遠くで、鈴の音が鳴っているような気がした。

















「なに、これ」
「これを枕元に置いておくと……」
「プレゼントが貰える、とか?」
「そう。せーかい!」


やっぱり私、子供扱いされてる気がする……。それでも言われるままに、手渡されたフェルトの靴下を枕の横に置いて、布団にもぐった。まだ酔ってるのか、もう冷めたのかわからないけど、サンタクロースは満足気な顔で、布団にはいった私をみている。


「カカシって実は、イベントとか好きなんだね」
「いや……異文化交流って大事でしょ?」


うん、大事だけどさあ。ますます、カカシって、そんなキャラだったっけ……。怪しくおもいながらも、目を閉じる。もう、長い間、カカシと一緒にいるけど、やっぱり彼の事は掴みきれない。今日もまたひとつ、あらたな一面を知った。カカシは意外と、イベントごとには全力で取り組むんだな……。


朝起きて、真っ先に靴下の中をチェックした私も、このイベントにのせられてしまっているのだけど。

私は靴下の中に、小さな箱を発見した。途端に心臓がどきどきと音をたてる。この大きさは、もしかして……。

開けてみると、中身は空だった。どーゆうこと?

はっとなって手を見ると、プレゼントは既に、薬指にはまっていた。



それを見た途端に、昨日のカカシの行動に妙に納得してしまった。「くりすます」に夢中になって見せたのは……照れ隠し?

箱と一緒に入っていたカードには、やっぱり、「メリークリスマス」としか書いていなくて。それしか言うことないわけ、と笑いながら、貰ったばかりの指輪を、太陽の光にかざした。

正気に戻ってぬぎすてたのだろう、サンタ服が床に落ちていて、拾いあげると、まだ温もりが残っていた。恥ずかしがりのサンタクロースに、プレゼントの真意を聞くため、私はくすくす笑いながら、寝室を出た。


END.
091224


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