夢 | ナノ
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どうしてそんな事になったのか、もはや覚えていないのだけれど。
一つだけ確かな事は、あの時の私たちは相当酔っていた、ということ。

tactics


年末年始やたらと増えるものがある。この里の長がまさに、里を代表する酒豪だからなのか……。任務に支障を出さない程度に、だけど自分の時間がとれなくなる程度に飲み会が多くなる。

――忍の三禁に、酒って含まれてなかったっけ?忍の三禁といえば酒と金と……あとなんだったっけ。

酔った頭ではどうでも良い事のように思えて、私は考えることを放棄した。

「よっ、晴。飲んでるねェー」

そういうアンタも飲んでるねぇ。隣に座るとき、ちょっとよろけたカカシに苦笑を漏らす。ぐい、と口布を下げて、景気良く酒を流しこむのを横目に見た。飲まなそうで意外と飲むのよね、この男は。

カカシと同じ上忍である私は、自然と同じ飲み会に参加することが多い。年末の忙しい時期に頻繁に顔を合わせる事が出来るのは、企画者さまさま…つまり、綱出様様といったところだろうか。

ごくりと音をたてて上下する、カカシの喉仏にみとれてドキドキしてしまう。
私、重症かも……。
ただの同僚からそんな視線を向けられている事など気づかないようで、カカシはグラスを置いた後、やけに近い距離で私の事をじっと見た。色白な彼はアルコールですぐに赤くなってしまう。潤んだ瞳に見つめられて、居たたまれず目を逸らすと、唐突にカカシが言った。

「晴はさ、好きなヤツとかいるの?」

動揺しているのがバレないように、目線をグラスに向けたまま答える。

「……いるよ?」

今、私の隣に。
そう続ける勇気は無くて、私はグラスに口をつける。グラスの中身は殆ど空で、溶けて半分ぐらいになった氷にまとわりついた微量の梅酒が、申し訳程度に喉を滑り落ちていった。

「……へぇ」
「まぁ、片想いだけどね」
「……初耳だな。告白しないの?」
「うーん、告白も何も、たぶん意識すらされてないからなぁ」

苦々しい気持ちになって、片想いの相手、張本人であるカカシをじっと見ると、彼は何か考えるような表情で、頬杖をついてこちらを見ていた。眠たそうな瞼が、今日はさらに重たげに見える。一体どのくらい飲んだんだろう?

「なるほどね。……じゃあさ、オレと付き合おうよ」
「うん……。え!?」

びっくりして右手からグラスが滑り落ちる。「あ…」膝の上に転がって、氷がつるりと滑り出た。中身が殆ど入ってなかったのは幸いだった。おしぼり、と思っていると心を読んだように横から手が伸びて、カカシに太股を拭われた。服ごしとは言え、そんなところを触られるとは思っておらずびくりと体が震えてしまった。って、そうじゃなくて。今大事な事を言われたような気が……。

「カカシ今…何て…?」
「だから、オレと付き合おう。晴」

信じられない気持ちで目を瞬かせる私を見て、カカシはくすくすと笑っている。その頬は赤くほてっていた。

「カカシ、あんた酔いすぎだよ……」
「酔ってない」
「酔ってるでしょ」

カカシがぐでん、と私の体に凭れかかってきた。これを酔っ払いと言わずに何というのだろう。「晴……」聞いたことも無い甘えるような低い声を出して、カカシの体はさらに滑り落ちていき、私の太股の上に頭を乗せたかと思うと、心地よさそうに目を閉じた。私は驚きのあまり言葉が出なくなる。カカシの頭の重さがしっかりとそこにあって、全身が硬直する。

「カカシ、私の好きな人が誰だか…わかってるの?」

もしかして、両思いって事?
一瞬浮かんだ淡い期待は、しかし数秒後に砕かれた。

「いや、全然……検討もつかないけど」

重たげに瞼を開けたカカシが、私の事をとろんとした目で見上げてきた。

「あのねカカシ……冗談で付き合おうとか言っちゃダメ」
「何で……?」

カカシは子供のように無垢な目で、不思議そうにしている。
私は努めて冷静に、落ち着いた声を装って、ゆっくりと言った。

「何でって……それはこっちのセリフだよ。何で私とカカシが付き合うなんて冗談言うの?」

ボタンを掛け違えた時みたいに、カカシは腑に落ちないという顔をしている。私だって腑に落ちない。

「何で冗談だと思うわけ?」
「だって……え、冗談じゃないの?」
「うん」

カカシはゆっくりと体を起こした。がんがんする、と呟きながら、頭を抱えている。カカシの離れていった後も、いつまでも太股に頭の感触が残っていた。

「……冗談じゃないなら一体どういうこと?」

私の問いかけに振り向いたカカシは、やはり赤いままの顔をずいと近づけてきた。

「……よく考えてみなよ晴。オレたちが付き合っちゃえば、晴の好きな人がヤキモチ焼いてくれるかもよ?」

そう言って、カカシはにやりと悪戯っぽく笑った。

「……なにそれ。そんなことしてカカシは何かメリットあるの?」

心底がっかりしながら……それを表には出さないように気をつけながら、私は聞いた。酔っ払いの戯れ言だとわかっていても、ほんの一瞬、期待してしまった自分を恥じた。カカシが私の気持ちに気付いていて、その上で、付き合おうって言ってくれたんじゃないかなんて、都合の良すぎる事を思った自分を。

「メリット?もちろん、あるよ」

カカシはあっさり言って、目を弓なりに細めた。
……つまりカカシにも、ヤキモチを焼かせたい人がいるという事なんだろう。



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