学校中の桜が満開になるのをみるのも、今年で三年目だ。

開け放った窓からぶわりと風がふきこんで、小さな桜の花びらが入ってきた。二つ前の席で、突っ伏して寝ているカカシの銀髪の上に、ちょこんと花びらが着地する。たぶん、目撃した人は他に誰も居なくて、あたしはこっそり笑った。

呪文みたいな英語の時間。授業終了10分前。一番眠たくなる時間帯だ。

爆睡しているカカシに先生が気づかないわけは無いのだけど、起こして当ててみたところで、カカシは完璧に答えてしまうのだろう。

二つ隣の列の、斜め前の席では、オビトが教科書に書き込みをしている。……ように見せかけて、たぶん落書きをしている。

その隣の列の一番前で、リンは真面目に授業を聞いている。どの教科も成績優秀なリンだけど、英語は特に得意みたいだ。テストでは学年で五位以内にいつも入っている。

彼女がこの教室で授業を受けるのも、あと三ヶ月ちょっとだ。

リンはこの夏からイギリスへ行き、うちの高校の姉妹校で半年学んだあと、むこうの大学へ進学するらしい。

翻訳家になりたいというリンの夢を聞いたのは、一年以上前の事だった。子どもの頃からの夢で、海外の児童書を日本語に訳す仕事がしたいんだって。そのために、留学実績の多いうちの高校に入ったらしい。

あたしが知っているってことは当然、オビトもカカシも昔から、リンの夢を聞いていたんだろう。

リンが遠くに行ってしまうことは寂しいけれど、それ以上に、リンの夢を応援したいと思っている。それはきっと、オビトも同じだと思う。……カカシもきっと。


春休みのあの日の後、それぞれがどうしたのか知らないまま、新年度がはじまった。三年生のクラスは持ち上がりだから、メンバーは変わっていないけれど、心機一転席替えがあったので、何だか見える景色が違って落ち着かない。

リンとオビト、そしてカカシとは見事に席がバラバラになった。

休み時間の度に、あたしとリンが席を行き来するのは変わらないけれど、隣の席じゃなくなったオビトは、最近は近くの席の男子と話していることが多くなったから、自然とあたしたちが三人で話すことはあまり無くなった。

オビトとリンはあの日、水ノ国駅で別れた後はどうしたんだろう。
気になるものの、聞くきっかけをまだつかめずにいる。

カカシはというと今までと何も変わっていない。休み時間は、寝てるか本を読んでるか、ぷらっといなくなるかで。

変わった事と言えば、あたしは最近、カカシの様子ばかり気になって目で追ってしまっている。カカシよりも後ろの席で良かった……。

昼休みになると相変わらず、リンは委員会、オビトは部活へ行ってしまう。教室に残されたあたしは、空席になったカカシの席をぼんやり眺めながらも、屋上へは足を踏み出せずにいた。――カカシの事が好きだと自覚してしまった今、急に、どんな風にカカシに接すれば良いのかわからなくなってしまって。

カカシがあたしの事を好きだと言ってくれたのが、もう随分昔のことのように思える。

あの日、一緒に星の海を見たあとは、カカシと全く連絡もとらないまま、春休みが終わってしまった。新学期に入ってからも、カカシとは挨拶をしたくらいで……ちゃんと話せていないのだ。

そうして今日も、ぼんやりパンをかじっている内に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




下駄箱から靴を出して、薄暗い昇降口を出る。

花曇りの空かぁ、なんて、最近現国の授業で知ったばかりの言葉が頭に浮かんだ。どんよりと今にも雨が振りだしそうな空の下、桜並木は白っぽくくすんで見える。

ふと、桜の下に立つ人影に足がとまった。

「……カカシ?」

桜の木に凭れていたカカシが、ゆっくりと顔を上げた。

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