春休みも半ばを過ぎた。昼前まで惰眠をむさぼっていたが、そろそろ起きなくてはと体を起こす。ヘッドボードにのせたままの二枚の半券が目に入り、何となく手に取った。水族館とプラネタリウム。……彼女を誘えて良かった。楽しんでいたように見えたのは、多分気のせいでは無いはずだ。

大きく伸びをしてから、携帯を見る。晴からの連絡はやっぱりきていない。自分から何か送れば、きっと返してくれるのだろうけれど……。用事も無いのに何と送れば良いのか話題を見つけられず、昨夜も三十分ぐらい悩んで結局寝た。

晴をまた遊びに誘いたいところだったが、ある事情によりこの春休みは急に忙しくなってしまった。先日かかってきた電話の主から聞いたのは、あるおめでたい報告と、助けがほしいという要請だった。……丁度オレもその人に聞きたい事が山ほどあったので、オレはその要請を受けることにした。

昨日届いたメールを見返して、今日の予定を頭の中で組み立てる。
いくつかのメールの中に、幼馴染みからきたものがあった。

……話したい事ってなんだろう。

リンから届いたメールに書かれている時刻まで、もう間もない。リンと会った後、家に帰っている時間は無さそうだから、そのままあっちに行くようだ。荷物を袋に詰めながら、オレはなんとなく昔のことを思い返していた。



三年前。


「リン、家庭科の教科書貸して!」
「うん。ちょっとまっててね」

次の教室移動の準備をしていると、廊下からオビトが入ってきて、前の席のリンに話しかけた。机の中を探しているリンに、オビトは「時間割勘違いしちゃってさ〜いつもワリーな」と手を合わせて笑っている。

「まーた忘れたの?……リンにちょっかいかけたいからだろ。それでなけりゃただのバカだな」

オレが溜息をつきながらそういうと、オビトはムキになって顔を赤くした。

「ああん!?誰だって物忘れや勘違い位あるだろーが!!」
「それにしてもお前のは異常でしょ」
「まぁまぁ…」

小学生の頃から、オレ達三人は腐れ縁のような仲だった。オレとオビトがくだらないケンカや言い争いをするのを、リンがなだめるという構図は昔から、日常茶飯事だった。

困り笑いをしながら、仲裁してくれるリンには時々申し訳無くなったが、オビトがいけないのだ。こいつがバカな事ばっかするから。

「リンはもう英作文終わった?」
「うん。昨日の夜やったよ」
「まじか!オレまだ半分しか終わってないよ」
「……リン、こいつに宿題貸さなくていいからな」
「あ!?借りるなんて一言も言ってねぇし!」
「お前なら言いかねない」

火花を散らしながらオビトと睨み合っていると、「もうやめなよォ……」と、さすがに呆れた様子でリンが言った。

「オビトは今日の放課後図書館行く?」
「おう!リンも?!」
「うん。宿題しようと思ってたから」

小学校の頃はずっと同じクラスだったのに、中学になってオビトだけクラスが離れてしまった。クラスは違えど英語教師は共通で、オレ達の学年を担当しているダン先生は、出す宿題の量がハンパじゃない。ただ問題集を解くようなものならまだマシなのだが、英語の本を読んで英語で感想を書くとか、英語で日記をつけるとか……そういうのが多いので、オビトは毎回頭を抱えているようだった。

そんなオビトに、リンはよく付き合って、放課後、近所の図書館に併設された自習室に集合して勉強したりしていた。少人数で一緒に勉強できるブースがあるのだ。

オレも家で勉強するよりはかどる気がしていて、たまに自習室に行くのだが、……あそこに行くとついつい、棚の本を読みふけってしまうきらいがある。自来也先生の若い頃書かれた本も初版から揃っているのだ。

それでも時々、リンでもオビトに教えられない問題があったりするとオレに聞かれるので、教えてやる事もあった。……そうして教えていると、人に勉強を教えるのはあまり嫌いでは無い自分に気づく事があった。ぼんやりと、ミナト先生に憧れていた頃の事を思い出す。学校の先生なんて……オレの柄では無いだろうか。


「まったくもう……カカシはオビトの前では子どもっぽいんだから」

そう言ってリンに微笑まれると、なんだか恥ずかしかった。こいつがいつも突っかかってくるからやりこめてるだけで……子どもっぽいは無いでしょうよ。
ふてくされているとリンはますますくすくす笑う。

そうしてリンが笑っているだけでも、オビトはポーッと間抜け面で彼女に見とれていた。リンは優しくておだやかな性格だし、顔だって可愛い。それこそ小学生の、はじめてあった時から、オビトがリンに惚れている事はバレバレだった。オレにいちいち突っかかってくるのも、何やらオレをライバル視しているからなのだと思う。心配しなくても、お前からリンをとったりはしないよ。そりゃあ、リンの事も大切な友達だと思っているけれど……オビトが彼女にむけている「好き」とは多分違う。

人を好きになるって、どんな感じなんだろう。

いつも真っ直ぐリンを見つめているオビトを見ていると、少しだけ羨ましくなることもあった。絶対に本人には言わないが。

「ありがとなリン!昼休み返しに来るわ〜!」

嵐のようにオビトが教室を出て行った。

「あいつ休み時間の度にくるな……」

オレが呟くと、リンは苦笑いをした。二年になって、またオビトだけクラスが離れてしまったから、あいつは寂しいのかもしれない。クラスが違ったって、家は近所だし、自習室でも何処でも、頻繁に顔を合わせてはいるのだが。

気づけば教室にはオレとリンの二人だけになっていた。他の生徒は次の教室に移動したらしい。リンが理科の教科書をあわてて準備している。

「トイレ寄るから先行くよ」

リンに声をかけて、オレは先に教室を出た。


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