透き通ったみずいろの中を銀色の光が縦に横にながれていく。

ガラス越しにひろがる水中の世界。青や黄色や銀色の小さな魚たち、星みたいなヒトデ、にょろっとしたオレンジと白のしましまのステッキみたいなやつ、どこを見ても面白い。一日中いられそう!

「すごいね、きれいだねえ!」
「そうだね。思ったより魚の種類も多いし」
「ジオラマみたい!!」

明るい緑の水草の絨毯が、まるで草原みたい。その上を小さな魚たちが気持ち良さそうに泳いでいる。

「あの岩のかげにいる魚かわいいね」
「カクレクマノミだね」
「え!?そんな忍者みたいな名前なの!?」

水槽にくっつけていた額を離して隣をみたら、カカシが可笑しそうに笑っていた。

「晴、そんなに一生懸命見てたらおでこに跡つくよ」
「……だって、水族館なんて久しぶりなんだもん!」
「楽しんでもらえてよかった」

カカシに微笑まれると、なんだかドキドキしてしまう。最近のあたしの心臓はおかしい。

「うー、しずまれ……」
「なにが?」
「な、何でもない……次はペンギンコーナーだって!」

壁のプレートを指差してかけだそうとしたら、手首をぎゅっと掴まれた。

「走っちゃダメ。危ないでしょうよ」
「……!!!」

びっくりして掴まれた手をみてかたまる。

「……あぁ、ごめん」

カカシが手を離そうとした途端、どん、とあたしの背中に人がぶつかった。
そのまま前によろめいたところをカカシの体に受け止められた。

「ひゃあ!!ごめんっ」
「大丈夫?……危ないな」

あたしにぶつかって通りすぎていった集団をカカシが睨む。

「ぼーっとしてたあたしも悪いから……」
「ま、走ってぶつかってたら、もっと危なかったね」
「……うう。ごめんなさい」
「危ないから手、」
「え?……あ、うん」

カカシはあたしの手をとると、そのまま歩き始めた。
優しく握られてしまった手に驚いて、また心臓がどきどきしてしまう。

カカシの手、大きいな。こうしてカカシの後をついて歩くと、人の流れにぶつからずにすんだ。カカシは前だけを見ていて、振り向いてこないから良かった。今あたしの顔は、多分真っ赤になってしまっているから。

それからずっと、カカシと手をつないだままで、ペンギンやアザラシをみた。
動物たちのかわいさに癒されながらも、横にいるカカシにはドキドキしっぱなしで……。顔もみれないし、話をふられてもしどろもどろな返事しかできない。緊張して手に汗をかいてきたけど、どうしよう。

「もうすぐ出口かな」

薄暗い照明の通路の向こうに、静かなブルーの光が見える。そこは、壁も天井もガラスになっていて、小さなドームみたいになっていた。透明なクラゲの赤ちゃんが、ふんわりただよっている。さっきまであんなに混んでいたのに、出口が近いからか人がいない。

「……きれい」

つい、繋いでいた手に力がこもってしまって、カカシが応えるみたいに手を握り返してきた。恥ずかしくて俯く。

「手つなぐの嫌?」

優しい声でそう聞かれた。

「……嫌じゃない、けど」

嫌じゃないことに、困っているのだ。抱きしめられても、手をつながれても、ドキドキするだけで少しも嫌じゃなかった。これじゃまるで、あたしはカカシのことが……

「その、男の子と手つないだことなんて初めてだから。ドキドキするっていうか……」
「オレも初めてだよ」
「……え?うそ!?」
「……本当」

カカシの顔を見上げる。水色のひかりに照らされた銀髪がきらきらして綺麗だ。

「……初めて人を好きになった」

何かの小説のフレーズみたいに、カカシが言った。
そうしている間も、手は繋がれたままで。

「……あたしのどこが好きなの?」
「それは、付き合ってくれたら教えるよ」

カカシは悪戯っぽく笑う。

勇気を出して聞いたのに!

膨れるあたしの顔をみて、カカシは笑うだけで、それ以上何も聞けなかった。

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