一年の時仲良くなった友達には彼氏がいた。中学の時の先輩で、もう二年もつきあっていたらしい。彼のためにお弁当をつくるんだってはりきって、おかずは何がいいかな?って相談されたっけ。バレンタインにはそれこそ、大きなチョコレートケーキをつくってわたしてた。先輩の誕生日のプレゼントを選ぶのを手伝った事もあったけど……男物のブランドなんて、あたしもちんぷんかんぷんだったから、一緒になって悩んで探した。

彼氏がいるっていいなあって思ったものだった。
いつも一生懸命な友達が眩しくて、かわいくて、うらやましかった。

一度だけ廊下で二人をみかけた時も、微笑みあっていて、仲が良さそうで……ほんとに幸せそうだった。

だから、先輩の受験をきっかけに、二人が別れてしまった時は、信じられなかった。

『無理、死んじゃう!!って思ったのに……3日ぐらい泣き続けて、死んだように寝て、また泣いて……。そしたら何だかすっきりしちゃった』

なんて言葉をかけたらいいかわからなかったあたしに、友達は本当にすっきりした様子で笑った。先輩と別れるか別れないでずっと悩んでいた時より、ずっと元気そうだった。

心の底から好きになった人の事を、すぐに忘れるなんて無理だし、忘れる必要もないんだとおもう。

でも、彼女みたいに。もしこの恋が終わるときには……落ち込むだけ落ち込んだあと、しっかり立ち直って、前を向けたらいいなって。……その時もう、オビトに好きな人がいることに気づいていたあたしは、思ったんだ。





腫れたまぶたは重たいけど、どこかすっきりした気分で目覚めた朝。

レモン色のカーテンから陽光が透けている。窓をあけて冷たく澄んだ冬の空気を吸い込んだ。庭も道路も、向こうの家の屋根も、真っ白な雪がふりつもっていて、陽射しをあびてきらきら光っている。風ひとつない晴天だ。

早起きをしたから、時間は充分にあった。まぶたを冷やしたり温めたりして、腫れはだいぶ引いたと思う。鏡をみても、泣いたようには見えない。

いつもより早めに家を出て、澄みきった青空の下を歩くのは気分が良かった。まだ足跡のついていない雪の上を、さくさく踏みながら歩く。


人がまばらな昇降口で靴を出している時「おはよ」と声をかけられた。

顔を横にむければ、スポーツバッグを背負ったオビトがたっていた。
どきんと胸が騒ぐ。暗い声にならないように気をつけながら「おはよっ…!」と慌てて返したら、妙に力んだ発声になってしまった。

どぎまぎしながら、上靴をゆっくり履いた。

「早くね?あとで授業始まる前に雪合戦しようぜ」
「えっ……?」

唐突な提案に驚いて、オビトの顔をみると、いつも通りの顔で笑っていた。

「負けたほうがやきそばパンおごりな!!」
「なんで高校生にもなって雪合戦?……どうせ賭けるなら苺ホイップロールがいいし!!」
「お前ほんと甘党だよな〜」
「大体、雪合戦の勝ちって何をもって決めるの?」

あたしとオビトは並んで階段をのぼりはじめた。

「二限ミニテストだよね。勉強した?」
「まじかよ……聞いてなかった」
「昨日先生言ってたじゃん……雪合戦してる場合じゃないね」

拍子抜けするほどいつもどおりに続く会話。気詰まりな沈黙も、妙な気遣いも無かった。

オビトはいつもと同じようにあたしと話して、笑ってくれている。
……そんなオビトの態度が嬉しくて、少しだけ泣きそうになってしまう。


『ありがとう。でも、ごめん。オレ……晴のこと、最高の親友だと思ってる。お前の気持ちには応えられないけど、でも……これからも友達でいてくれねえか?』


オビトに昨日、そう言って貰えて。
片想いが実らなかったことは、やっぱりすごく悲しかったけど、でも。

最高の親友だって、言ってくれたことは本当に嬉しかった。


今こうして、オビトが笑って、いつもみたいに話してくれるから。
昨日の言葉は本当だったんだって、確信した。

……あたしは、オビトがやっぱり好きだ。親友としても、大好きだ。

今はまだ、片想いしている気持ちは消せないけれど。
恋としての「好き」は少しずつ、無くなっていくのかな。

それとも、これから先も、消えることなんてなくて。

あたしはこれからもずっと、オビトの事が好きなのかもしれない。

……でも、それでもいいと思えた。

だって、両思いになって付き合うことだけが、恋じゃないはずだ。

あたしは、オビトを好きになって良かった。完全な片想いだけれど、生まれてから今までで、一番の恋だから。


「そういや、お前の好きなストロベリーティーまた売店に出てたぞ」
「ほんと!?復活したの!?」
「また飲みすぎて糖尿にならないようにな」
「はあ?糖尿になったことなんてないし!オビトこそ、やきそばパン早食いしすぎてメタボにならないでね!!」

教室のドアをくぐると誰もいない。あたしたちの机は昨日と変わりなく、仲良く並んでいる。

「一番乗りだな」

オビトがそう言って、二人で顔を見合わせて笑った。


きっと。

オレンジ色の夕日を見るたびに、雪が降るたびに、ストロベリーティーを飲むたびに。

あたしは何度でも思い出すのだろう。


こんなに好きになれた人に、ちゃんと好きだと言えて良かった。
勇気をだせて、本当に良かった。


prev next
back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -