月曜の朝、久しぶりに一限から登校しようと校門に向かって歩いていた。

「カカシ!」

背後から駆けてくる足音。振り向かなくても彼女だとわかる。

「おはよ!」

晴は鼻の頭を赤くして、白い息を吐きながら笑った。

「……おはよう」

キツい言葉をかけてしまった昨日の今日だ。気まずく思っていると、晴は自然にオレの隣を歩き始めた。

彼女の顔をこっそりうかがうと、あまり寝ていないのか、瞼が若干腫れている。
やはり言い過ぎた、と後悔した。あんな風に偉そうに言うんじゃ無かった。

「昨日はありがとう」

予想もしない言葉が聞こえて、驚きながら晴の顔を見る。

「カカシに背中を押してもらえなかったら、あたし、意気地無しの情けないやつのままだったよ。……ほんとに、ありがとう」

なにかを覚悟したような笑顔だった。
そんな晴が眩しくて、オレは咄嗟に何と言えば良いのかわからなかった。
昨日オレは、晴の背中を押すどころか、突き離すような事を言ったのに……。

「あたし明日、オビトに言うよ」

晴は真っ直ぐ前を見て、そう言った。

「そう。……頑張れ」

やっと返した言葉は、きちんと、彼女を応援しているように聞こえただろうか。

焚きつけたのは自分自身で……半分は本気で、晴の事を応援したいと思っている、はずだけれど。
もう半分は正直に言って、複雑な思いを抱えていた。

……彼女の事をずっと見てきた。だからこそ、何もせずに諦めてほしくは無かった。

それなのに、いざ決意を固めた晴を見ていると、苦いものを飲み込んだような重たさが胃の中に広がった。

晴に偉そうな事を言ったくせに、オレ自身はまだ、彼女に何も伝えようとしていない。

諦める気は無かったけれど、のんびりともしていられない状況だ。
追い込んだのはオレ自身だ。

小さく拳をつくった晴は、オレにむかって力強く笑った。
昨日見せた弱さが嘘のように、睫毛の先にまで決意がみなぎっている。

「ふあ……」

晴がふいに大きな欠伸を漏らした。

「昨日チョコレートの試作してたら夜中までかかっちゃってさぁ。今日の授業は睡眠学習になるかも」
「それでそんな腫れぼったい目をしてんだね」
「え!?そんなに腫れてる!?」

慌てる晴をともなって校門をくぐる。始業が近づいて、まわりの生徒も皆足早になっていた。



オビトが彼女に振り向く可能性はゼロじゃないと思う。

あいつは晴のことをいつも、気が合って何でも話せるやつだと、親しみを込めてオレに話していた。

恋愛対象としては、オビトはリンの事しか見えていなかったはずで。
鈍さの塊みたいなヤツだ。たぶん、今まで晴のことをそういう対象としては見てこなかったはずだ。

けれど、晴の気持ちを知ったら。
あいつは……晴の事をどう思うのだろう。

急ぎ足になる晴の横顔を見ながら、誤魔化しようのない憂鬱な気持ちが頭をもたげた。


――ずっと好きだったの、とか。真っ赤な顔して、言うんだろうか。

あの日、屋上で、オレの前で泣いた時みたいに。震えながら、それでも必死に想いを伝えるんだろうか。

それとも彼女らしく、笑って言うのかもしれない。靴をはきかえる晴の後ろ姿を見ながら、どうにもならない気持ちの逃げ場を探して、親指を強く握った。

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