「で、カカシとなんかあったのかよ」
「いや別に何も…」
「はい嘘!」

鋭いつっこみに、ぐ…と何も言い返せず困っていると、「ま、話したくないならいいけどさ」と言いながらオビトは棚を探っている。

オビトとあたしの好きなバンドの、新しいアルバムが発売されて、二人でCDショップに限定版を買いに行った帰り道。「そういやベースのサソリさんが前にインディーズでやってたバンドのCD、晴に貸したっけ?」とオビトが言って、「何それ知らない!聞きたい!」と言ったところ、「じゃー貸すからオレんち寄ってけ」と言われて、今こうしてオビトの部屋に居るのである。

オビトに片思いしていた頃は、オビトの部屋に来たことなんて一度も無かったなぁ、と思いつつ、オビトの部屋をざっと見回す。男の子らしい配色の部屋で、あちこちに積み重なったプリントや整理されてないゲーム機なんかが見られる。カカシの部屋とはまたちょっと違った感じ。

「あったあった…!」

ちょっと埃っぽいCDを一応そこにあったティッシュで拭いた上で手渡された。

「ありがと!わ、サソリさんこの時からカッコイイ…」
「だよなー。小南ちゃんもこの時からサソリさんと活動してたんだけどさ、ボーカルやってるんだぜ」
「えー!それはレア!はやく聞きたい!」
「聞いてく?」

オビトがパソコンで音楽を流して、二人であれこれ語り合っているうちに、トイレに行きたくなって借りることにした。

「二階にもトイレあるけど遠くてわかり辛いから、一階の階段の脇使って」という声を背に、部屋を出た。
オビトの家はかなり広い。『うちは』がこのあたりの地主だって事は、何となく知っていたけど、実際お家にお邪魔してみるとその広さに唖然としてしまった。
「やっぱり召使いとかいるの?」
「召使いってなんだよ…掃除に来てくれるおばさんならいるけどな」
「へー…」
そんな会話をしながら家に来た。オビトのお母さんは高校の授業参観で一回挨拶したことがあったけれど、覚えていてくれたみたいで、品の良い笑顔で出迎えてくれた。うちのお母さんだったら、異性の友達を家に連れてきたらいらない邪推をしそうだけど、オビトのお母さんは全然そんなことなかった。

トイレを済ませて廊下に出ると、小さな人影が二つあって、ちょっとびっくりした。向こうもあたしに気づいたみたいで、びくっと震えた後、「こんにちは…」と声を掛けられた。慌てて挨拶をしかえす。
オビトと同じ黒髪の、男の子が二人。一目で、二人は兄弟だとわかった。小学生ぐらいのお兄ちゃんと、ナルトくんぐらいの年の弟だ。二人ともまだ幼いけれど、はっとするほど綺麗な顔立ちをしている。オビトには兄弟はいないはずだけど、親戚の子だろうか?

「オビトさんのお友達ですか?」
お兄ちゃんの方が、落ち着いた口調でそういった。随分と大人びた表情をする子だな、と思った。
「あ、うん……。あたしはオビトの同級生で、晴っていいます。宜しくね」
「あんたがオビトのかのじょか?」
「こらサスケ…。すみません。オレたちはオビトさんの親戚で……うちはイタチです」
こっちは弟のサスケです、といいながら、イタチくんは丁寧に頭を下げた。サスケくんの頭にも手を置いて、一緒にお辞儀をさせる。しっかりしたお兄ちゃんだなぁ、と思いながら、あたしも頭を下げ返した。

二人のご両親は今夜法事で不在らしく、オビトの家に預けられたらしい。
「オビトいつのまに帰ってきたんだよ…。ニンジャごっこして遊びたかったのに」
サスケくんが頬をふくらます。イタチくんが優しく笑いながら、
「お客さんが来てるんだから仕方ないだろう。サスケは兄さんだけじゃ不服か?」と言うと、
「ううん。兄さんがいればいい!なー、あっちで紙手裏剣つくろう」
サスケくんがイタチくんの袖をひっぱる。仲良しなんだなぁ、と頬をほころばせながら二人を見送った。



「親戚の子がきてたよ」
「ん?あー、そういやイタチとサスケが泊まるって言ってたっけ」
「あんまり長居しても悪いし、そろそろあたし帰るね」
「おう、じゃー送るよ」

窓際のごちゃごちゃしたスペースから、オビトが自転車の鍵を取り上げる。
ひらりと封筒がひとつ、床に落ちた。

「おっと…」
「あ、それって」

青と赤の帯に縁取られているその封筒には、見慣れた綺麗な字が躍っている。

「ふふ、リンと文通してるんだ?」
「ああ…まー、リンも忙しいだろうからよ。そんなに頻繁には来ないんだけどな」

照れくさそうに、でも嬉しそうにしているオビトに、あたしも何だか心がほっこり温かくなる。
留学する前に「あのね晴ちゃん…私、オビトの事好きみたい」と、赤くなりながら教えてくれたリンの事を思い出す。
遠距離だけれど、二人は順調みたいだ。

外に出るとまだ真っ暗では無かったけれど、だいぶ薄暗くなってきていた。

「カカシは今日何やってんだー?」
「え?……今日は金曜日だから、バイトかな?」
「受験生なのにバイトって、あいつやっぱすげーな…」
「だよねー。平日は短時間しか入ってないみたいだけど。はぁ、あたしも帰ったら勉強しなきゃ」
「オレも新曲聞きながらやろっと」
「そうだった!BGMがあると思うとやる気出るよね」

自転車を押すオビトに並んで歩いていると、なんという偶然だろう。坂の下、角をまがってこっちに向かってくるのは、見慣れた銀髪の彼だった。

「晴。オビトも…こんな時間に何してたの?」
「カカシ!…今日akatsukiのCD発売日で、オビトと買いに行ってたんだよね」
「へー……」

ちょっと距離があるし薄暗いから、カカシの表情ははっきり見えないのだけれど、それはあたしの表情もカカシに見えてないと言うことで、好都合だった。すごく緊張して、顔が強張っているのに気づかれてしまうから。

「カカシはバイト帰りかー?」
「ああ。……晴送ってくならオレが代わるよ」
「えっ……」

こっちに歩いてきたカカシが、さっとあたしの手をとった。近くで見た顔は、笑っているけれど…なんだか不機嫌そう。

「おー、じゃあ頼むわ」
「あの……オビト……!」
「また来週な、晴。カカシーお前がヤキモチ焼くような事は起きてないから安心しろよ」
「うるさいよ……」

舌打ちするカカシに構わず、オビトは坂道を引き返して行ってしまう。

「ほら行くよ」

カカシに手を引っ張られて、慌ててついていく。
怒ってるのかな、と思うと怖くて顔が見られない。
ただ手を繋がれているだけなのに、どきどきしていたたまれなくて俯く。

「オビトんち行ったの?」
「うん……CD借りたんだ」
「そう……」
「あの、カカシ、怒ってる?」

意を決して聞いてみる。カカシは立ち止まって、静かな目であたしを見た。

「怒ってないよ」
「……でも」
「晴の方こそ、…全然メール返してくれないし、電話も出ないけど。……この前の嫌だった?」

カカシが表情を変えないように、気をつけているのがわかった。
それであたしは、自分がカカシを不安にさせちゃっているという事に今更気づいたんだ。

「嫌じゃ…なかったけど…恥ずかしくて…」

この間、カカシの部屋で一緒に勉強した。相変わらずカカシは教えるのがうまくって、正直予備校に行ってるより毎日カカシに勉強を見て貰った方が学力あがる気がする、と思ったけど、そう毎日お邪魔したらカカシに迷惑かけるし、でも、週1〜2日くらい、カカシに勉強を見てもらってて。「教えるのも勉強になるから」と優しく笑ってくれるカカシにあたしは甘えきっていた。

カカシと付き合ってからもうすぐ三ヶ月以上がたつけれど、お互い受験生という事もあり、丸一日中遊ぶわけにもいかなくて、遠出のデートとかはできていない。それでもたまに一緒に帰ったり、勉強したりするだけで嬉しかった。この夏の花火大会は一緒に行こうね、と先日約束したばかりでもある。

カカシと付き合ったあの日、桜の木の下でキスをして以来。
手を繋ぐ以上の事は何にもしていなかった。

それがこの間、カカシの部屋にいる時に、落とした消しゴムを拾う時。

ふいにお互いの手が触れて、はっと目が合ったカカシの両目が、不思議な熱をもっていて、目が、離せなかった。

そのまま、カカシの顔が近づいてきて、唇と唇が触れる、寸前に。

「ただいまー。お、晴ちゃん来てるのか?」

サクモさんの声がして、慌ててあたしたちは顔を離した。

「お、おじゃましてまーす!」
「……おかえり父さん」

それから、恥ずかしくてカカシの顔が見れなくて。「夕飯食べていくかい?」とサクモさんが言ってくれたけれど丁重に辞退して、「送ってくよ」というカカシの言葉にも「だいじょーぶ!また明日ね」と被せるように言い放ち、脱兎のごとく帰ってしまったのだ。

あれからカカシとどう接したら良いのか解らなくて、学校で話しかけられても挙動不審な態度ばかりとってしまうし、メールも返せず電話もとれずにいる。あたしの挙動不審な態度はオビトからみても丸わかりだったらしく、それで今日「カカシとなんかあったのか」なんて聞かれてしまったんだと思う。

「この間はごめん…怖がらせた、よね」
「あたしこそごめん…!その、あの、怖かったとか嫌だったとかじゃなく…」
「……」
「……」

き、気まずい。

「あたしも……カカシとまた、キスしたいよ?」

勇気を振り絞って言ってしまってから、慌てて口を塞ぐ。けど、飛び出してしまった言葉はもう消せない。焦っている内に、カカシにがっと両腕を掴まれてしまった。

「……!」
「じゃあ今、しても良い?」
「えっ…!?ここで!?」

カカシが真剣な目をしていて、また目をそらせなくなる。薄暗い中でもこれだけ至近距離で見つめ合っているのだ、カカシの顔が赤くなっていることくらいわかる。私だってきっとそれ以上に赤い顔をしている。

「ちょ、ちょっと待って……誰が通るかわかんないし」
「誰も来ないよ」
「そんなのわかんな……」
「キスしたい。晴」

覚悟を決めるしかなさそうだ。ええいもうどうにでもなれ、と目をぎゅっとつぶった。











「晴さん」
「……!!」

はっと目をあけて、あたしとカカシは坂の上を見る。

「イタチ、くん…」

薄暗い中、美少年が一人で立っている。

「あの、忘れ物して行かれましたよ」
「……あ、ありがとう」

イタチくんは小さな手提げ袋をもって、あたしの方へ歩いてきた。
オビトにCD借りるために家にいったのに、肝心のCDを忘れるって…あたしは馬鹿か。

「オビトに頼まれたの?」
「はい。まだそんなに遠く行ってないだろって」
「こんな時間に小さな子に…オビトってば…」
「男なんで大丈夫です」

そう言うけど、イタチくん、美少年すぎるし気をつけた方がいいんじゃないだろうか。

「カカシさん、お久しぶりです」
「あー……大きくなったね」

にこ、と微笑むイタチくんに、カカシは頬をかきながら答える。

「晴さん、オビトさんの恋人じゃなかったんですね」
「えっ!?」

イタチくんはふっと綺麗に笑うと、「それじゃ…」と言って坂道を戻って行ってしまった。

「……」
「……」

カカシとあたしはしばらく呆然とイタチくんの後ろ姿を見つめた。

「帰ろうか」
「うん……」

なんだか脱力しながら、二人手を繋いで歩く。

「あの、カカシ…」
「ん?」
「明日はまた、カカシん家に行っても良い?」
「……うん」
「こ、心の準備していくから!」
「……無理しないでいいよ」
「無理してないよ…」
「そう。ありがと…」

にこっと微笑むカカシはいつものカカシで。今夜は悶々として眠れなそうだ、と思いながら、その前に勉強しなきゃ、と思って、溜息をついた。


end.

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