ふっと目を覚ました。部屋はほんの少し薄暗くなっていたが、多分30分と寝ていないだろう。
体を起こすと、隣のベッドでまなつが体を丸めて眠っていた。

……そういえば部屋に来てたんだった。

立ち上がって伸びをして、まなつの事を見下ろす。何だっけ、オープンショルダーカット?から覗く肩が、冷えていそうで気になった。掛け布団の上にそのまま眠っているので、しかたなく、オレが寝ていたベッドから薄手の布団を持ち上げて、まなつの体にふわりとかけた。

「んん……」

と鼻にかかった甘い声を漏らすけれど、起きる気配は無い。

「全く人の気も知らないで……」

ベッドの縁に腰掛けて、まなつのおでこをそっと撫でてみた。

「大きくなったな……と思ってたけど、やっぱりまだまだ子供だね」
「……カカシせんせ……すき……」

起きたのかと思ったけれどどうやら寝言らしい。オッサンの胸をときめかせて何がしたいんだろうこの子は……。
まなつの隣には一人分寝れそうなスペースが開いていた。……ふいに悪戯心が芽生えて、隣に横になってみる。

無防備に眠るまなつを至近距離で眺めながら、こんなところを誰かに見つかったら、オレは逮捕されちゃうんだろうか……とぼんやり思った。薄く口を開いて眠っているまなつの顔は、……あどけないながらに充分女の顔をしている事に気づいてしまった。呼吸にあわせて震える桃色の唇から目が離せなくなる。触れてみたら、どんな感触がするだろう。

ムラムラとよこしまな感情がわいてきて、あわてて目を閉じた。

いや、ダメだろう。だってこいつ……何歳下なんだっけ。たしか、一回りは下だったような気がする。でもたしか18にはなっているんだっけ?
……いやいや、やっぱり犯罪だよな、どう考えても。

ダメに決まっている、手なんて出したら……。いくらこいつがオレの事を好きでも。……オレがこいつを……どのように思っていたとしても……。ぐるぐると考えながら、きつく目を閉じている内に、しばらく時間が経過して。

なんかもう、考えるのも面倒くさくなってきたなぁ、と思っているうちに、だんだんとまた、眠たくなっていた。やはり連日の任務と夏バテで、だいぶ疲れが溜まっているみたいだ。
宴会まではまだ時間があるはずだから、多分大丈夫だろう……と思いながら、オレはまた意識を手放した。










扉を叩く音がする。


「カカシ先生ー!」


ドンドンという音がだんだん大きくなる。

うるさいな……まだ寝かせてよ……。

「やっぱり返事が無いってばよ!でも中にいる気配はする……もしやカカシ先生熱中症で倒れてるのか!?」
「それはないだろ……でもいい加減起こさねェとヤベーな。めんどくせーけど宴会がはじまっちまったら、怒られるのはオレたちだ」
「ばーちゃん怖ェーからなぁ。カカシ先生にはじめの挨拶させるんだって言ってたし」
「多分本人聞かされてないだろうけどな……」

ん……?
この声は、ナルトとシカマルか?

「おい、鍵とってきたぞ」
「サスケ、サンキュー!」
「開けるしかねェな……」

何か聞こえるけど、眠たすぎて起きるのがだるいなぁ。
そう思いながら、腕の中の温もりをぎゅっと抱き寄せる。

心地よい、ちょうどいいサイズの抱き枕。




……そんな物がこの部屋にあるはずないのに。


「あ……」

今の状況が大分やばいという事に気づくのと、ナルト達が部屋に飛び込んでくるのはほぼ同時だった。


「……え?」

ヤバイ。慌てて、いつの間にか抱きしめていたまなつから手を離して、体を起こすけれど、時既に遅し。
部屋に入ってきたナルト、シカマル、サスケが、驚愕の眼差しでオレと眠るまなつを見ている。

「カカカカカカカシ先生なななななな何してるんだってばよ」
「あ、いや、違うんだナルト……」
「オレ達邪魔しちまったみたいですね……」
「違っ……お前らが誤解するような事は何もだな……」
「カカシお前……やっぱりロリコンだったのか」

サスケの軽蔑しきった目が何だか一番刺さった。やっぱりってどういう事だ。聞きたいような聞きたくないような。


「ん……あれ、ここドコ?」

騒ぎにようやく目を覚ましたまなつが、のんきに部屋をキョロキョロ見渡している。

「ドコって……お前がこの部屋に来たんでしょうよ」
「カカシ先生が連れ込んだのか……!?」
「ナルト人の話を聞きなさい」

だらだら汗を流すオレに、ナルトが疑いの眼差しをむける。シカマルとサスケは幾分か落ち着きを取り戻した様子で、……それはそれで怖いのだが、成り行きを見守っている。

「カカシせんせー……あれ、みんなどうしたの?」
「もう宴会の時間だ。お前……カカシに何にもされてないか?」
「え?」
「あのねェ、オレみたいなオッサンとまなつが何かあるわけないでしょ!」
「抱き合って寝てたのに説得力無いッスよ……」
「なんかよくわかんないけど、カカシ先生はオッサンなんかじゃないよ!まだまだ若くて元気だもん!」
「……まなつ、今の状況でそう言われるのはかなりマズイ」

きょとんとしているまなつの、肩のリボンが片方ほどけている事に気づいてオレは更に青ざめる。案の定気づいたシカマルが目をそらしながら、「やっぱりあんたら出来てたんですか。めんどくせェなだったら最初から同じ部屋にしとけよ」などと言った。

「シカマル、誤解だから」
「カカシ先生、往生際が悪いのは情けないってばよ」
「……頼むから哀れむような目でオレを見ないで」

その時部屋の外でまた騒ぐ声が聞こえてきた。

「ねぇ、まなつちゃんが部屋にいないんだけど!あんたたち見た?」
「わたしは見てないけど……」
「カカシ先生を探しに行ったはずなのよ」
「さっきナルトくんたちがカカシ先生の部屋に入っていったよ」
「ほんと?……なんか先生の部屋開けっぱなしになってるわね」

サクラやらヒナタやらの声がする。

「あー、あいつら入ってきたら、まためんどくせェ事になるな……」

頭をかくシカマルを見ながら、オレは深い溜息をついて項垂れた。





end.



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