「せーの!」

夏空の下、はしゃぎながら少女達が高く跳び上がる。

三人の足が地面から離れてほんの僅かなあいだ宙に浮かび、またバラバラに地面に着地するまでの一つ一つの瞬間を切り取るように、シャッター音が連続した。

「アスマ、お前どうみても変態だな」
「おー殺されたいのかカカシ…?」

カメラを構えているのはアスマで、その被写体となっているのはいの、サクラ、まなつの三人だ。アスマが連写したのは、被写体である彼女たちにそう指示されたからである。

「上手く撮れました?」

言いながらまなつがこっちへ駆け寄ってきて、アスマの手元を覗き込んだ。サクラといのにもあっという間に囲まれて、アスマはやれやれと言いながら、さっき撮影したばかりの写真を表示して彼女たちに見せているようだった。最近のカメラは撮影した画像をすぐに見れるらしい。

『ジャンプしてるところを写真に撮ってください』なんていかにも子供っぽいお願いである。上手く撮れていたのか、きゃあきゃあ言いながら騒ぐまなつ達に若干呆れながら、オレは木陰に移動した。

決して遊びに来ているわけではないのだが、結構な団体で、とある山中の演習施設に泊まりがけで来ている。上忍・特上・中忍と様々な階級の忍が参加し、地形を生かした大規模な演習を行いながら技を磨きあい、交流を深めるという目的だ。夜には宴会まで予定されている……やっぱりこれって遊び目的なんじゃ?発案者である綱手様も夜の宴会には顔を出すつもりでいるらしい。やはりオレは里に残るべきだったのでは、と思うが、綱手様に半ば強制的に参加を命じられたので仕方が無い。

山の中には人手が加えられた観賞用の花畑なんかもあった。ちょっと里では見られないような品種の花もあり、見渡す限り広がる花畑は絶景で、青空とあいまって見ているだけで夏らしさを感じる。この焼けつくような日差しさえなければずっと見ていたいぐらいだ。
朝から続いた演習を終えた後の休憩で、まなつたちが見に行きたいと騒ぎだし、何だか一緒に行動していたオレ達も引き摺られてここに来たのだった。

まなつと海に行ったのは先週のことで、あれから暫くまなつには会っていなかった。避けていたという訳では無いが、お互いに任務も詰まっていたし、……実際、まなつへの想いを自覚してしまってから、どのように接するべきか決めかねていて、なるべくまなつの居そうな場所には寄りつかなかったというのもある。これって避けているという事になるんだろうか。

先日の海で日に焼けたまなつの健康的な二本の足が、オレンジ色のワンピースから伸びている。まなつもサクラもいのも、夜の宴会に備えて私服に着替えたらしい。汚れた忍服のまま突っ立っているオレとアスマとは違って、思春期の少女は忙しいこった……。それにしてもあんなに肩出しちゃって……。両肩にリボンが結ばれていて、一見少女らしい雰囲気なのに、肩が半分以上露出していて、背中も大分開いたデザインだ。

「お前その服……肌見せすぎじゃ無い?」
「え、そうですか?かわいくないですかこれ!?」

まなつはぐるっとターンして見せる。仕草がいちいち子供っぽいものの、ふわっと広がるスカートにどうしても眉根が寄ってしまう。かわいいかかわいくないかっていったら、世の男達の殆どはかわいいと答えるだろう。けれどそんなに肌を晒してたら、かわいい以上の不埒な感情を向けられてもおかしくないわけで。けれどそんな事を言えば、オジサンの小言と取られるだけだろう。

「……その服、変なカタチに日焼けしそう」
「そ、そうですかね……」

でもこの形流行ってるんだけどなぁ、とまなつは口を尖らせる。おーぷんしょるだーかっとって言うんですよ……と呪文みたいな言葉を呟いているが、オジサンには全然わかりません。

「ねーカカシ先生も、ジャンプして一緒に写真とりましょうよ!」
「ヤダ」
「即答!」
「オレがジャンプするわけないでしょ……意味も無く」
「でも楽しいですよ!?」

やれやれと呆れているオレに構わず、まなつはキラキラした目でこちらを見上げてくる。サクラといのよりは年上だったはずだが、精神年齢はそう変わらなそうだ。……やっぱりコイツ、若すぎるよなぁ。

「さっきパンツ見えてたよ」
「えっ!?見えてた!?」
「嘘だけど」
「カカシ先生のエッチ!」

見えてはいないけど見えそうだったのは事実である。そんなヒラヒラした服でジャンプするとかあり得ない。もうちょっとそこらへん気をつけるような、大人の女になってもらいたいものだ……。

「あっ、ガイ先生。リーもネジもテンテンも!」
「おぉまなつも来てたのか!」
「ガイ先生たちも一緒にジャンプしながら写真とりましょう!このお花畑の前で!」
「それはいいな!素晴らしい青春の写真が撮れそうだ!」

お花畑なのはあいつらの頭の中身だと思う。オレは溜息をつきながらイチャパラに視線を戻した。
青や赤やピンクの花が、視界の端で風に揺れている。



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