□ほんの少し










アクマが人を好きになる。

そんなこと聞いた事なかった。

けれど、私はその第一人者になってしまった。

叶いもしない思いを秘めて、敵であるエクソシストの側にいる。
あっては行けないことと知りながら、気持ちだけは抑えられない。

敵同士だというのに。


「…おい、どうしたんだ?」


幸い、貴方には気付かれていないのが救いです。

私がアクマだということが。

もし私がアクマだと分かったら、貴方はきっと私を壊すのでしょうね。

視線の先がこちらを向いていた。

彼は不愉快に眉を寄せている。


「…どうしたって聞いてんだ。答えろよ」


…どうやら私が無視したと勘違いして拗ねているようです。
つん、とそっぽを向かれアルは笑う。

結構、子供っぽい所があるんだな…。


「神田様、機嫌をなおしてください」

「別に機嫌が悪い訳じゃ無い」


でも、私と目を合わそうとしないじゃないですか。


「機嫌直してくださいよ」

「……」

「もう…」


こんなやり取りさえ嬉しく感じる。
拗ねた貴方の一面も知れてさらに嬉しい。


「…別に、怒ってはいない。……ただ、」

「?ただ?」

「悲しいことでもあったのか?」




ああ、ばれていた?

悲しいこと?


それは、


私がアクマだということ。

貴方がエクソシストということ。


ただ、それだけ。




「…神田様と離れるのが寂しかっただけです」

「……そうか…
俺は、これから任務に行ってくる」

「こんな遅くに?」

「いや、出発は朝だ」


その間に、お前と会っていたくてな。

そう言われた後には、視界は真っ暗に。
貴方の黒髪に視界が遮られていた。

ほのかな温もりを残して。


「…か、…神、田…様」

「…言っとくが、お前が初めてだからな」




――頬にキスしたのは。

黒髪はなびいて揺れた。

艶のある髪は空を舞い、姿を消した。



「…任務、ですね……」



私の、任務も

もうそろそろ


始まる……。









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