□露骨なまでの煩悩で抗う










「そんなことよりも室長、早く元帥を紹介してくれませんか」

「君の元帥はもう決まっているよ。ただし、君にはまだその人は早過ぎるかもしれない。だからその人の弟子に教えてもらおう。兄弟子ってとこかな」

つまり、兄弟子に習えということだ。
イノセンスもまともに発動出来ない奴が元帥に着いて行った所で、ただの足手まといにしかならない、ってことか。


「それならその兄弟子はどこに?」

「いるよ。入っておいで」


兄弟子という事には、大して興味も沸かなかった。
ただ、イノセンスの使い方を習わなければならない相手だという事くらいの意識だ。兄弟子だから畏まるだとか、今の自分には有り得ない。

興味も期待も希望も、その兄弟子には抱いていないし、向けていない。ただ自分の相手をする奴。自分がイノセンスを使えるようになるまで利用する奴、としか思わなかった。

そんな冷めた感情のまま、扉はギィ、と軋ませて開いた。

そしてそこに、兄弟子と思われる人が立っていた。

コムイはよく来たね、とニコリと笑みを浮かべながら室内に入るようにと促した。


「彼が君の兄弟子になるカイル・アルベルト君だよ」

「……この人が?」


コムイに促されて室内に入って来たのは、自分と同じくらいの背丈。
ハーフパンツにブーツという、如何にも「元気な少年」といった格好をした人物がいた。

見るからに、自分と同じくらいの歳だろう。もしかしたら自分より年下かもしれない。


「どうも!カイルっていいます。君が俺の弟弟子になるアキラ君?」


ニコニコと社交辞令的な笑顔を向けてこちらに歩み寄って来る兄弟子。


「俺達の元帥は何かと問題があるけど、凄い人だからさ、頑張ろうな」


よろしく!と手を差し延べ握手を求めて来るそいつは、まだにこやかな笑顔を浮かべていた。
人懐っこいのか何なのか分からない奴だ。

ただ、はっきり言えることは一つ。


「…」


この笑顔、嫌いだな。

人懐っこい笑顔ではあるが、それは良く言えばの話。
自分からしてみれば、馴れ馴れしくて嫌な笑顔だ。その笑顔でどれくらいの人をたらし込んだと言ってやりたいくらいだ。


「? どうした?」

「あ、いえ、何も…」


なかなか握手をする気配の無い俺を疑問に思ったのか、不思議そうな表情を浮かべて顔を覗き込んできた。

その行為でさえ嫌なのに、握手までしろというのか。


「(…荒んでるな、俺)」


ここまで人と接したくなくなっていたとは、自分でも驚きだ。


しかし、そこは抑えないといけない。この兄弟子がいなければ、イノセンスの扱い方を学べる相手がいなくなる。それだけは避けなければならない。


「アキラです。…よろしくお願いします」

「おう、任せろ!ちゃんとイノセンス扱えるようしごいてやるからな、覚悟しとけ?」


そう言って渋々差し出した手を無理矢理握り締め、ブンブンと上下に激しく振る。

…強く握り締めすぎだ。馬鹿力め。

乱暴な握手からやっと離された手を摩り、ぺコリと頭を下げた。


「ようこそ黒の教団へ!ようこそソカロ部隊へ!これからよろしくな、アキラ君」


改めてまた挨拶をし、頑張ろうとまた兄弟子は笑っていた。


この兄弟子は、自分が感情任せに入団し、感情任せにイノセンスをふるおうと考えていることなど、露も知らないだろう。



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