□韋駄天の駆け往く無限回廊
足を踏み入れ、漸くたどり着いた地面の感触に目を閉じる。
ここに着くまでの道のりは長かった。けれどその距離さえ、この記憶からすれば短いこと。
目を閉じると今でも鮮明に思い出せて気持ち悪い。
姉さんがひどく責められている時。俺は何もしてあげることが出来なかった。
――…愚かな!禁忌を図るなど…っ!
――図ったのではない。こやつは行ったのだ。
――神聖なる御身を汚す禁忌を何故起こそうと…っ。
――追放だ!風童の弟もろとも、禁忌に汚れた者など置けぬ!追放すべきだ!
禁忌を犯し嘆く人
禁忌を犯したことを知り怒る人
それは半々に別れていた。
大人達はそう言い、追放を余儀なくされた。意識がまだハッキリしていなかった俺は、大人達の声をただ耳に通していただけだった。
…ただ、姉さんは食い下がり断固として譲らなかったのは覚えている。
――…禁忌を起こしたのはこの私。この子には何の罪も無い。慈悲の心があるのなら、この子の事は見逃してもらえ無いだろうか。
――たわけ!禁忌を起こした者、お前と繋がりの強い弟、二人とも追放に決まっておる。ましてや、禁忌の術を受けた身体の弟を誰が好き好んで近寄るというのだ!
――口を慎め!禁忌を犯していてもその方は尊い人だぞ。
――禁忌を侵せば尊き人であろうとも汚れた人に堕ちる!何故分からんのだ!
…禁忌に汚れた“私の弟”というなら、姉という私がいなくなれば、この子は見逃してもらえますか?
禁忌の術を受けたといっても、術を使った私の方が重い罪のはず。弟の分も罪を負いましょう。だからこの子は見逃してください。
自分が弟である俺の分まで罪を負うから、見逃してくれと姉さんは言っていた。
凛とした立ち振る舞いはいつも通りの姿。なのに俺は、そのいつも通りのはずの姉さんを見ながら、何処か危なげな気配を感じていた。
――…そのような要望、聞き入れるとでも?
一人の男が言った。
弟の分も罪を背負うから見逃してくれとは、都合の良い話。お前も弟も、禁忌を犯した者と、禁忌の術を受けた者として汚れているのは事実。
隠し通せるものではない。
二人は同じくらいの罪を負わなければならない。どちらか一方が背負う事など罪の重さからして出来ぬこと。
そう言って譲らなかった。
禁忌を犯したという記憶さえなかった俺は、この時皆が何を言っているのか分からなかった。ただ、良くないことを姉が犯し、俺もそれについていたという事は、何と無く理解できた。
何を言っても聞き入れてはくれないと悟ったときの姉さんは、途端にピリッとした空気を纏った。
――…ならば、
貴方方の記憶を改ざんしてでも、弟を助けるまでです…――
- 4 -
*前│次#
back
TOP