オーバーライト
ひのてんR18

「やっ、ぁん……っ」

ぬるぬると中心に同じ熱を擦り付けられ、濡れた音がひっきりなしに響く。そのままぬるっと会陰に沿って滑ったものが、ひくつく入口をつぷりと探ってきた。

「入れるね」

「っは、あ、ぁーーーっ!」

短い宣言ののち、狭いそこを抉じ開けて質量が押し入ってくる。あまり労せずに全てを呑み込ませた火野は、奥から入口までをゆっくりと擦り立てていく。

「あんまり締め付けちゃダメだよ。動いてあげられないから」

ぎちぎちと狭まる入口を苦笑しつつ指先でなぞると、火野は体を若干前に進めた。そうすると自然と尻が浮き上がり、当たる角度が変わった天子は甘く悲鳴を上げた。

「ごめんごめん。この方が楽なんだ」

「ひっ、ぅあぁっ」

上からばつんと腰を打ち付けられ、摩擦に身悶える間もなく再び貫かれる。

「やだっ、これ……っんぁあ!」

襞を一枚ずつ擦るように時間をかけて抜き出されたものを、勢いよく打ち下ろされて頭が真っ白になる。腹の中は半ば痺れながらも快感を紡ぎ、とぷとぷと中心から白濁混じりの雫をこぼしていた。

「もう我慢しなくていいよね? てんこも限界でしょ」

「は……っ、あぁっ、だ、め……っ、も……っ」

灼熱の塊でやや乱暴に最奥をノックされ、入口まで戻る間にも敏感な肉壁としこりを否応なしに穿たれる。はぁ、と耳元で落とされた熱っぽい吐息に、ぶるりと全身が戦慄いた。

「ここ、熱くてとろとろで…そんなに僕のこと好きなの? 全然離してくれないよ」

「っ! ふ、あぁ……っ」

いっそう激しく腰を叩きつけられ、体がカウチをずり上がる。天子の上体を抱き締めてそれらを戻してから、だらしなく開いていた両脚を自分の腰に巻き付けた。

「てんこもこうやって、ぎゅってしてて」

彼の華奢な腰をがっちりと脚で固定していると、自ら精を欲しがっているようでいたたまれない。羞恥に煽られた下肢が震え、充血した粘膜が彼のものにきつく絡み付く。

「あ、あっ、も……っ、きちゃ…うっ」

律動に従って体が前後すると、しとどに濡れた中心が彼の服で摩擦される。限界まで膨らみきった波が刻々と押し寄せてくるのが怖くて、彼にしがみつく力を強めた。

「そうだね。一緒に気持ちよくなろうか」

「ひ、っあ!」

深く呑み込んだ熱を抜き出され、とろけた内壁を掻き分けてぐぷんと埋め込まれる。幾度も繰り返される動きは徐々に早まっていき、がつがつと穿たれるものに変わっても、もはや痛みは感じ得ない。ただ純粋で莫大な快楽だけに身を焼かれ、ぼろぼろと訳もなく涙がこぼれる。

「や、あぁっ、も、だめ………っ、だめ……!」

「うん。僕も、ダメ」

熱を孕んだ低音で囁かれたのち、髪に差し込んだ手で後頭部をすくい取られた。腰をぐっと突き入れられて、腹の奥が歓喜に打ち震える。

「っ―――――!」

宙に投げ出されたような感覚の中で、愛する者の一部をきゅうきゅうと締め付け、声も上げられないまま達する。一拍遅れてから、びくびくと絶頂の余韻に震える粘膜へ叩きつけられる欲情。彼に似つかわしくない荒い呼吸が鼓膜を掠め、下腹部の刺激と併せてもう一度高まってしまいそうだった。
彼が腰を引いて繋がりを解けば、注ぎ込んだ白濁がとろりと零れ出す。

「大丈夫? 無理させてごめんね」

髪を撫でながら火野が語りかけると、天子は焦点の合わない瞳でぼんやりと頷いたのち、そっと瞼を下ろして体から力を抜いた。
気を失うように眠りについた恋人に微笑み、火野は体を起こして、腰の丸みを伝う欲の証に視線を移す。こんなものでマーキングできたとは思わないが、すぐに掻き出してしまうのは勿体ない気がした。

「本当はこのまま、栓でもして帰らせたいくらいなんだけど」

ぶつくさ言いつつ自分の着衣を直し、タオルを湯で絞って後始末に取り掛かる。
まぁ仕方ない。行為自体も限界を超えて付き合わせてしまったので、これ以上無体を働くわけにもいかない。いやいやと口では拒否しつつも満更でない反応だったので、きっと次回も期待できる。
なので、今日のところはもう優しくしてもいいだろう。

◆◇◆

「で……なんでこうなるんですか」

「ん? 電車なんて久しぶりだなと思って」

蓮華駅の五番線ホームで下りの電車に乗り込んだ天子は、むうと唇を尖らせてポールに寄り掛かる。

「別に、また触ってくる奴がいてもぶん殴るだけ――いや、今度こそ半殺しにしてやる。やっぱ許さねぇ」

「はは、怖いなぁ」

「だからその…送られなくても、大丈夫なんで」

複雑そうな顔で、天子はがしがしと頭を掻きながら小さな反発を試みる。恋人と帰路につけるのは嬉しいが、守られていると考えると女の子扱いされているようで嫌なのだろう。
この電車は蓮華発なので、発車までのあと三分ほどは停まっている。降りるならなら今のうち、ということだ。

「もちろん大丈夫だとは思ってるよ、僕に守られるような子じゃないもんね」

「じゃあなんで…」

「んー、どちらかというと体が心配なんだけど」

「かっ………」

ぱっと顔を背けた天子は扉の窓の外に目を向けたが、ほんのりと耳が赤らんでいる。人目が無ければぱくりと食べてしまいたい。火野は微笑んだまま、さらなる追い打ちをかける。

「座らなくていいの?」

「っ……」

朝と違って、時間に幅のある夕方から夜にかけての電車は人もまばらだ。座席もちらほら空いている。
耳元からうなじまでが紅潮する様もなかなか悪くないのだが、今は襟に隠れて見えない。首元まで珍しくきっちりと留められたシャツの下には、 愛された痕がいくつも散らばっているのだ。

「十五分くらい、別に……ていうか、あんまり近づかれると、その…」

「その?」

天子は顔を上げ、車両をぐるりと見渡して眉を寄せた。

「女がみんなこっち見てくんの、嫌なんですけど」

仕事帰りのOLから女子学生に至るまで、ちらちらと熱視線を寄越されてげんなりする。無論、自分にではなく大半が火野に向けられていることはわかっているが、それはそれで面白くない。
そりゃこんな整った顔がうろついてたら見るのは当然だが、恋人である自分は別に顔だけで好きになったわけじゃないのだ。お前らとは違うんだぞと言いたくなる。

「手でも振ってあげればいいよ」

火野は注目もどこ吹く風といった表情で、発車の音楽をふんふんと聞いていた。地元出身のアーティストのヒット曲だ。ゆっくりと閉まるドア。ガタンと車体が前方へ動き出した。



「高浪ってこんな駅だっけ。何年か前に寄った覚えがあるんだけど」

「こんな駅ですよ。マジでなんもない」

約十五分、電車に揺られた二人は高浪駅のホームに降り立つ。改札の窓から顔を出している駅員に定期を見せつつ、狭い待合室を見回して天子が返答した。自動改札すらない小さな駅は、市内最大の蓮華駅と比べるまでもなく『駅』として最低限の用途を果たしているのみだ。

「つーか、ここまで来てもほんと何もやることないっていうか…」

「いいんだよ。門限があるわけでもないし、暇だから。――あ、でも帰りの電車は割とすぐ来るんだね。じゃあ帰ろうかな」

時刻表を見て微笑む姿に、きゅっと胸が締め付けられる。帰りたくないなんて、一緒にいたいなんて、反吐が出そうな感情だ。
ふふ、と火野が口許に手を当てて笑いかけてくる。

「あんまりそういうかわいい顔しない方がいいよ? 悪い大人に悪戯されちゃうからね」

「は!? っ……してねぇし」

もしかしなくても気持ちが表情に現れていたのだろうか。そっぽを向いて唇を噛んだ天子の手を引いて、火野は駅を出る。あまりに自然な動作で、拒否するタイミングを掴む前に問い掛けが投げられた。

「お腹すいたでしょ。この辺、どこでご飯食べられるの? 案内してくれる?」

「え」

「え? あんなに運動したんだからお腹すい――」

「てる! すいてます!」

火野の言葉を遮るように叫ぶと、そうだよねぇ、とやや憎らしくもある笑顔で応じられる。こういうところが嫌いで、本当に嫌いで、本当に大好きだから始末が悪い。
こうなればもう開き直った者勝ち。ぎゅ、と強く手を握り返し、駅前の道路を闊歩していく。駐輪場の自転車は、後で彼が帰る時に引き取ればいい。

甘い雰囲気に浸っている時のふわふわとした高揚感はとてつもなく苦手だ。脳味噌綿飴か、森ガールか、ふざけんなとむず痒い気持ちになる。
だから、今日は人の金で思いきり辛いものを食べてやるのだ。温もりとは無縁の冷たい手を掴んで、古びた商店街をずんずんと進んだ。


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