オーバーライト
ひのてんR18

「ここも触られたんだよね? どんなふうにされたの?」

つつ、と手のひらがインナーのTシャツを撫でる。ばくばくと早鐘を打つ心臓の辺りで手を留まらせ、火野は優しく尋ねてきた。

「どんなって…さっき、みたいに撫でられて…」

「それだけ?」

念を押され、ぐ、と天子は奥歯を噛み締めて俯く。本当はそれだけじゃない。悪寒に煽られたとはいえ、胸のあらぬ場所を捏ねられて、ほんの少しばかり快感を得ていたのは事実だ。そんな心境を一瞬で見抜いた火野は、ちょいと小首を傾げて一言。

「僕に、嘘はつかないよね?」

「うっ……」

「言いたくないのなら、仕方ないけど。僕はやだなぁ、好きな子に他の男の感触が残ってるの」

好きな子。
さりげなく告げられた単語に、きゅうと胸の奥が疼き出す。
この人の特別でありたいと、出会って間もない頃からずっと持ち続けていた望み。叶うなんて夢のまた夢と諦めていたのに、彼はこうして想いを受け入れてくれて。
どこにでもいる恋人たちと同じく、抱き合ってキスをして、愛し合うことができる今の幸せを、当たり前と感じるのはおこがましいのではないか。一度好いてもらえたのなら、ずっとそうであるよう、自分も努力し続けなくては意味がない。

「な…撫でられて…、」

自分のものとは思えないほどか細い声が紡がれた。素の瞳がちらりと天子に寄越される。

「あと、ここ……」

口に出すことはさすがに憚られたので、火野の手を取って心臓側の突起に指先を当てる。まだ柔らかかったそこはぷにりと指の腹に触れるなり硬度を増し、ビビットカラーのTシャツをうっすらと持ち上げた。

「ここ?」

「っ、ぅ……っ」

意思を持った彼の指が、シャツ越しの乳首をゆっくりと円く撫でる。爪の先で軽く押し込まれれば、反発とばかりに立ち上がってくるから始末が悪い。

「答えて。ここ触られたの?」

「ぅ、あ……っ」

シャツの生地ごと指先でキュッと突起を捻られ、剥き出しの尻が跳ねる。張り詰めたものの先端から溢れた雫が、覆っているインナーをじわりと濡らす気配があった。感じきった甘い声を漏らすのは耐えられなくて、天子は口許に手を押し付けて何度も頷く。

「それはちょっと許せないなぁ」

「ふ……ぅっ、んん……っ」

やや不満げな台詞と共に、カリカリと爪で布地を掻かれる。ぷくりと尖った先端を弾かれると、僅かな痛みとくすぐったさに加え、じんじんともどかしい快感が腰の奥へ響いてきた。ひょいと火野に見上げられて、視線から逃れるように薄く涙の張った瞳を逸らす。

「知らない人にされた時もそんな顔してたの?」

「んんぅ……っ」

強めに摘まんだ突起をくりくりと引っ張られ、電気が走ったような鋭い快感に、高めの嬌声が鼻から抜ける。すかさずかぶりを振れば、嘘だよ、と唇を覆う手に口付けられる。

「嫌だったよね、こんなことされて。でもこのままにしておくのは癪だし、僕が触るのは許してね?」

「っふ、う、ぅ……っ」

触れられていなかった方にも細い指先が絡み、焦れったくなるほど優しく表面を撫でられる。対照的に、先に触れた方は緩急をつけて捏ねくり回され、中心からとぷとぷと断続的に蜜を滴らせてしまう。
こんなのおかしい。愛撫を受けることがあってもそこはあくまで性器までの通過点で、余すことなく快感を拾い上げる場所ではなかったはずなのに。膨らみもないくせに女みたいに好き勝手弄られて、刺激にいちいち腰をびくつかせて。触れ合いを拒否しようにも、体は既に言うことを聞かない。
火野も当然わかっているのだろう、先程と打って変わって楽しげな笑みを浮かべながら指を操っている。

「そんなかわいい反応してくれるなら、普段からもっとちゃんと可愛がってあげればよかったね」

「んぅ…!」

するりと捲り上げたTシャツの裾を、火野はそっと天子の口許に近づける。先走りで色を変えた所は、乾いた布地にくるむようにして。

「声、出したくないんでしょ? これ咥えてていいよ」

「っ……」

胸部を差し出すようなこの体勢で、さらに自分から肌を見せるなんて。とはいえ体はのっぴきならないところまで上り詰めており、声を響かせたくないのも本当だ。
戸惑いつつも促されるままに口を開き、己のシャツをきしりと噛む。露になった胸元から下腹部までがひやりと外気に晒されるのが恥ずかしい。向き合う二人の間で、濡れそぼったものがひくりと揺れた。

「赤くなっちゃってる」

「っん、う……っ」

散々触れられた方の尖りをつんと舌先でつつかれて、思わず火野の髪をぐしゃりと手の中で丸める。頭を抱き込むような形で刺激に耐えていると、自ら快感をねだっているようで余計にいたたまれない。
すっかり腫れた乳首にちゅっと唇を落とされ、濡れた舌がぴたぴたと触れる度に、不安定な上体が身動ぐ。

「ん、んぅっ、ふ……っ」

吸い付かれながら器用に舌で捏ねられ、もう片方も指と指で優しく圧迫された。と、思うと、

「んふ……っ、ふ、うぅ……!」

「ん? これが好き?」

前歯が当たるか当たらないかの絶妙な接触で扱かれた後、かしかしと甘く歯を立てられて腰が前後してしまう。痛みを感じると、なだめるように舌がねっとりと這わされて。気持ちよくて、気持ちよくて、痛くて、気持ちよくて。もう全部気持ちいいのではと脳が錯覚しそうなくらいだ。ちゅぱ、と僅かに音を立てて唇を離され、濡れて充血した突起が小刻みに震えている。

「こっちもしてあげるね」

「んぐ、んう……っ、!」

まだ指の快楽しか知らない尖りに舌を伸ばされ、肉の粒をぐりぐりと抉るように舐められる。反対側は唾液を絡めた指で尚も責められて、時折キュッと力を込められる度にぶるりと背がしなった。

「ふっ、ぅう、んふ……っ!」

歯で挟まれた乳首へ強めに吸い付かれ、先端を重点的に舌でしこられて濡れそぼった中心がびくつく。とろとろと芯を伝って溢れたものが内腿や火野のスラックスを静かに濡らし、ひやりと空気に晒される冷たさが羞恥を煽った。ぴくぴくと揺れる中心に目を落として火野が笑う。

「こんなふうになっちゃうくらい気持ちよかったの? ふふ、かわいい」

「ひっ、あ……っ」

根元からぬるりと撫で上げられると、直接的な快感に腰がビクビクと跳ねる。こぼれた嬌声を追ってシャツの裾がはらりと落ちた。
あとほんの少しでも触れられたら本当に達してしまいそうで、だめ、と生理的な涙を浮かべた天子が緩くかぶりを振った。

「だめなのはてんこでしょ? そんな顔してたらまた襲われちゃうよ」

「ん、ぅ……っ」

ちゅ、ちゅ、と触れるだけの優しい口づけを与えられ、我慢できずに自ら舌を差し出したが、キスは簡単に解かれてしまう。彼の膝上から体を下ろされて、もしや何か障ったかと懸念したが、どうやらそういうわけではないようで。

「痴漢とはいえ、知らない人間に好きに触らせたんだから。僕にも、好きにさせてくれるよね?」

「へ……? あっ」

ゆったりとしたカウチへ、俯せで体を伸ばされた。座面はカバーに覆われているので、革張りのひやっとした感触が直接触れないのはありがたい。端に置いてあったクッションを何とはなしに掴んで、恐る恐る火野を振り返れば、大丈夫だよ、と優しく微笑まれる。


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