オーバーライト
ひのてんR18

「大丈夫だよ。誰も来ないし、来ても化学部のみんなはちゃんとノックしてくれるから」

「そういう問題じゃ…っ、ん……っ」

筋肉でがちがちに硬いわけでもないが、決して女のように柔らかくはない。そんな場所を両手で優しく撫でられ、くすぐったさにふるりと腰を揺らす。彼は尚も尋ねてきた。

「ね、こういう感じだったの?」

「っ……そんな、んじゃない…」

「じゃあ、どういう?」

「もっと、気色、悪い…」

僕は気色悪くなれないよ、と彼がくすくす笑う。その表情にいくらか緊張が緩んだのも束の間、つつ、と指先で狭間を辿られて甘い吐息が漏れる。

「ここ、触られた?」

ぶんぶんと慌てて首を横に振るえば、そう、とやや安堵した様子で彼は頷く。

「撫でられたの? 揉まれたの?」

「どっちも……、ひ……っ」

ぐに、と両手が少し乱暴に丸い肉へ掴みかかり、痛みを懸念した喉が勝手に震えをこぼす。

「ふうん」

今度はつまらなさそうに頷いて、気に食わないとばかりに強く揉みしだく。あの痴漢でさえ、ここまで力を込めてはいなかったはずだ。痛みはないにしても、狭間を広げられるとあらぬ場所を意識させられて頬がかっと熱を持った。

「そうだ、こっちも触られたんだっけ?」

ぺたりと心臓の上に手のひらが当てられ、インナー越しに胸から腹までをゆっくりと撫で下ろされる。その間も尻を掴む手はもにもにと動かされたままで、こんな感じ?との問いにやっとのことで頷けば、褒めるように髪を優しく掻き回された。下らないことに付き合わせてごめんね、ということか。
ちゅ、と下から唇を宛がわれ、思わず彼の頭を抱えるようにしてそれに応える。彼を見下ろす姿勢が珍しく、何度も何度も、触れるだけの口づけを繰り返して。

「――いいよ、眼鏡外して」

深くなりきれないキスをもどかしく感じていると、ふ、と笑って彼が囁く。

「僕は両手、まだ忙しいから」

「っん、!」

腹に置いた手がインナーの上から胸の辺りをそろそろと探っていく。腰から滑ったもう片方の手は、無防備に開かれた太腿を気まぐれに撫でている。
レンズに阻まれた挑戦的な瞳と対峙すると、こくりと天子の喉が鳴った。恐る恐る、細い弦を指先で持ち上げ、額の方へレンズを滑らせて。するりと抜き取った眼鏡は折り畳んで、ローテーブルへ乗せておく。
改めて素の瞳と視線をかち合わせると、胸に触れられている手から鼓動の高鳴りが伝わりそうで怖い。

「んっ、む……」

自らゆっくりと唇を重ねれば、当然のように舌で上下の合間を割られて口腔へ押し入られる。舌先が触れ合った瞬間、ぞくりと尾てい骨を痺れさせた刺激にぱっと唇を離し、天子は首ごと頭を捻って逃れた。無論、唐突にキスを中断された火野はきょとんとしている。

「どうかした?」

自分から仕掛けておきながら、どういうつもりだと己を怒鳴り付けたくなる。でも仕方ないのだ。思っていた以上に体が刺激に飢えていたことを、強く実感させられたのだから。

彼に初めて抱かれたその日から、自分の体はすっかり作り替えられてしまった。普段の生活には差し障らないにしても、目合う度にとろけるような快楽を体の奥底に叩き込まれ、己に溜まってしまったものをやむなく処理する際も彼の触れ方でなくては満足に達することもできなくて。
その交わりだって、片手で数えられる程度しかこなしていないのだ。なのにここまで快楽に弱くなってしまっては乱れる様を見られるのも羞恥が募るばかりであるし、何より火野に引かれては困る。それはもう切実に、この自分が涙するほどには困る。

内々的だった事情を半ば自棄気味に吐き出すと、彼は何故か嬉しそうに微笑んで頭を撫でてきた。

「そうなんだ。僕見たいなぁ、えっちなスイッチが入っちゃうてんこ」

「はっ!? そういう言い方っ…」

「間違ってないでしょ? ほら、ちゃんと見せて。気持ちよくなってくれた方が僕だって嬉しいよ」

それだって限度ってもんがあるだろ、とぶつぶつ言いながら、火野の反応にどこかほっとしている自分がいる。改めて唇を重ねられ、もうどうにでもなれと、責任と一緒に舌を押し付けた。

「ん、ふっ……」

侵入してきた舌にちゅるっと根元から絡められ、早くも息が上がる。ぬるりと唾液で潤った舌を擦り合わせるだけでもビクビクと腰が跳ねてしまい、なだめるように尻を撫でられた。

「ふっ、ぅ……ん、ちゅ…っ…」

舌先を優しく吸われ、ちろちろと先を尚も弾かれて、生理的な涙がじんわりと視界に滲む。
体勢としては自分が上になっているはずなのに、好きなように翻弄されて気持ちよくなっているのは己ばかりだ。既にスラックスの前はぱつぱつに張っていて、脚を閉じていたいのに彼の腰を跨いだおかげでそれは叶わない。

「は……っ、んぅ……ふ、ぁっ…」

上顎の奥まった場所まで、彼の長い舌は丁寧にまさぐってくる。とうに知り尽くした口の中の弱点に、いくつも触れて、なぞって。舌を引っ込めてしまうと誘うように先だけをつつかれ、観念しておずおずと全体を差し出せば、裏側をぞろりと舐め上げられて腰の奥が震えた。口内を強引に暴かれ、電流の如き快感が背筋をびりびりと伝い落ちていく。
たかがキスくらい、異性が相手なら何度も経験があるはずなのに。彼女たちも自分も知らなかった。いやらしいことの前段階であるはずの口づけが、そもそもこんなにいやらしいものだなんて。

「ん、ぁ………っ、んむ……ふ、うぅっ!」

下肢へ向かった手のひらでさすさすと股間を擦られ、下着に包まれたものがビクリと揺れて蜜を滲ませる。ともすればその手に中心を擦り付けてしまいそうになるのを何とか抑え、舌を解放された天子は荒く呼吸を繰り返しながら唇を離した。舌先で繋がれた唾液がぷつんと途切れる。

「かわいいね。キスでこんなふうになっちゃうの?」

「やっ、それ……っ」

ベルトとウエストを手早く緩められ、重く張り詰めたものを下着の上から撫でられて腰が浮き上がる。濡れそぼった布越しに、尚も形を確かめるようにゆるゆると扱かれて、思わず火野の手首をきつく掴んでしまった。前回から日を置かれて溜まっているとはいえ、これではいくら何でも早すぎる。かたかたと震えながら浅い息遣いを漏らす天子に、火野は小さく笑う。

「我慢しなくてもいいのに」

「こ、んなんじゃ、まだ……っ」

「もっと気持ちよくなってからがいいの? そう…」

長い睫毛を伏せ、くす、と妖しく微笑まれて頬が熱くなった。この人はいちいち仕草という仕草が淫靡に映る。

「僕は予備があるからいいけど、服汚したら帰れなくなっちゃうし、脱いでおこうね」

「っ……」

腰を浮かせるよう促され、下衣をまとめて両脚から引き抜かれた。火野の家ならともかく、学校で、しかもいつもなら由姫がいるこの部室で、下半身を晒していると思うと徐々に羞恥が募る。尻に直接触れる彼のスラックスの質感に泣きそうになった。


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