春の夜(裏)
ひのてんR18

◆◇◆

「んぅ、ん……」

ちゅ、ちゅっと離れては重なる唇。その合間さえ埋めたくて、自分から舌を差し出す。ちゅるっと先端を吸われ、知らず知らずのうちに彼のシャツへ中心を擦り付けてしまう。はしたないとわかっていても、もう止めようがなかった。
ふかふかの大きな枕に寄り掛かった火野の上に、天子は向かい合わせで座るようにして愛撫を受けている。火野のジャケットとネクタイは床に放られているが、シャツはボタンをいくつか外した程度で、下は何も乱れていない。とはいえ、体液やら汗やらにすっかりまみれているので脱いだとしても今更なのだが。

「ん、あ、ぁ……っ」

濡れた指がゆっくりと後孔に差し入れられる。ほぐされたそこは難なく呑み込み、粘膜を絡ませて吸い付いてくる。跨いでいる格好なので、脚は嫌でも開いてしまうのだ。

「増やすよ」

「ふ、っあぁ……!」

三本の指が内部を優しく掻き回す。ばらばらに動かされ、ゆるりと弱い所を撫でられて腰がびくつく。首に抱き付くようにしてしがみつけば、シャツ越しに背中をさすられた。

「きつい?大丈夫そうかな」

「ん……ん、も、いい……です…っ」

いくら火野が長身とはいえ、華奢寄りである体に己の体重を乗せているのは申し訳ない。この部屋に運ばれた時だって、意外と重たい、の台詞を賜ったのだ。

「おもい、から……」

捻り出した声は想像より遥かに頼りなくて、いいようにされた体が、喉が、恨めしい。
くすりと笑いながら、下方向から唇を宛がわれた。

「重くないよ。こうしてると顔も見えるし、抱き合ってるって感じがして好きなんだけど、僕は」

そう言いつつ、体は柔らかなマットレスに沈み込んでいく。

「でも、力抜くのは寝てる方がいいと思うから。また後で、ね」

「っ………」

どこからか手際よく取り出したのは個包装の避妊具。ぴりっと指先で包装を破る光景があまりに倒錯的で、天子はふいと目を逸らす。
セックスなんて知りません、性欲なんてありません、という顔で普段は過ごしているくせに。本当に聖人君子ではないのだと、実感してしまった。見てはいけないものを見ている気分だ。

「やっ……」

濡れた場所にひたりと押し当てられたものの熱さに、体がシーツを擦り上がる。脚を抱えて元の位置まで戻され、ぐに、と入口を圧迫する、それ。
その顔いいね、と余裕しか感じられない表情で火野が覆い被さる。

「これから何されるか、わかってるけどわかりたくないって顔。好きだなぁ、かわいい」

「ん、んぅ……っ」

唇を奪われ、避妊具のジェルを馴染ませるようにぬるぬると先端を塗りつけられる。指を深く咥えていた名残か、新たな質量にぱくぱくと口を開いてしまうのが恥ずかしくてたまらない。

「痛いことはしないよ。ね、ゆっくりするから」

「ぁ、あぁ……!」

頬や額にちゅっちゅっと唇を降らせながら、比べものにならない大きさのそれが隘路を押し広げて入ってくる。彼のシャツにざりりと爪を立て、その圧迫感を逃がそうと必死だ。思った以上に痛みはないが、アドレナリンが馬鹿みたいに溢れているせいもある。応じてこぼれた涙を、指先でそっと拭われた。

「ほら、力抜いて?いい子いい子」

「ふ……ぅ、あ、みないで…っ」

脚を大きく開いて男のものを受け入れている顔など、絶対にまともなものではない。両手はしがみつくのに精一杯で、顔を隠すことは叶わない。
内壁に隠れたしこりを先端がぐんと押し進むにつれて擦られ、その度にきつい内部をより締め上げてしまう。しかし火野はそれさえ楽しんでいるようで、みちみちと健気に広がった入口を指先で辿る。

「ちゃんと呑み込んでるよ。たくさんしたから、切れてはないね、うん」

「ん、あぁっ、や、も、入んなぃ……っ」

指より先の、未開の場所をぐいとこじ開けられそうになり、天子は乱れた髪をぐりぐりと枕に擦り付ける。怖いの?と尋ねられ、正直に頷くと褒めるように髪を撫でられた。

「そう。じゃあもう少し慣れてからにしようか」

覆い被さったまま、落ち着くまで動かずにいてくれるらしい。下唇を食まれ、ちゅうと軽く吸い返すと、触れるだけのキスを繰り返される。
下腹部がずくずくと熱い。体内が爛れているみたいだ。摩擦による鈍い痛みは僅かにあるが、怪我まではしていないだろう。ずくずくするのは熱のせいか、疼きのせいか。舌先が触れ合うと、つい後孔を締めつけてしまう。柔らかな内壁がきゅうと絡み付いて――精を搾ろうと躍起になっているのか。そんな想像にもまた逐一体は反応し、その反応も繋がりから全て伝わってしまった。

「何考えてるの?」

「っあ、っ…」

前方にぐっと体を倒されると、自然と尻が浮き上がる。より深く繋がる体位を意識させられ、内側の粘膜がぐずぐずにとろけていく。
――ここを、擦られたら、いったい、どうなって。

「ふ、ぁ……っ」

微弱な振動と共に腰を送られ、浮かされた足がくんと宙を蹴る。指であちこちを探られるのではなく、より太いもので筒の全体を嬲られると無数の神経がびりびりと麻痺していく。殊更ゆっくりとした動きで内壁を捏ねられ、過敏になった襞が火野のものをきゅっともてなす。

「もう、大丈夫でしょ?」

「や…ぁっ、まだ……っ」

「ほんとに? ここは催促してくるんだけど」

ほらね、と言った火野がずるりと中心を抜き出せば、充血した肉襞が外側にまで追い縋ってくる。それを少しの勢いをつけて押し込まれ、天子はがくんと白い喉を晒した。

「んぁ……っ、だ、だめ……っ、んんっ」

ぬぷぷ、と粘膜をたっぷりと擦り上げて抜かれ、ぽっかりと空いた空間で揺れる襞を今度は内側へ刺激され。何度も形を覚え込ませるように、火野はそうして後孔を穿っていく。

「さっき指で触ったところ、わかる? ここなんだけど…」

腹側にふっくらと突き出たしこり。わざと避けていたのだが、そろそろ触れてもいいだろう。痛みを感じないよう、角度をつけて先だけで転がしてみる。

「ぅ、あぁ! それ…っ、んん――っ」

上から浅く突き込まれ、コリコリと張った膨らみに先端を擦り付けられる。剛直が行き来する度に、電流にも似た刺激が幾度も腰の奥を痺れさせる。
天子だって当然、知識の上ではそれが何たるかというのは把握しているが、こんなふうに、頭の芯までぐちゃぐちゃになるような快楽だったのか。もしくは、火野が人体に仕組みに関して異様に詳しいためか。

「そ、こばっか、やめ……っ、ひ、んぁっ……!」

壁の奥に潜むものを磨り潰すが如く、張り出した部分でずりずりと摩擦される。かと思えば抜き出す際にもわざと腹側の粘膜に擦れるよう狙われて、得も言われぬ強制的な快感に、涙でぼんやりと視界が滲む。目元にちゅ、とキスが落ちて、反射的に両手を浮かせれば優しく抱き寄せられた。

「よしよし。大丈夫だよ、気持ちよくなるだけだから」

「も……そんなの、いい…」

「どうして?」

「……俺、ばっかり…」

もはや敬語を使う余裕もない。掠れた喉で声をふり絞ると、後頭部に回った手のひらが、絡まった髪をそっと梳いていく。


next


×