この夜のすべて
ひのてんR18

「こんなことしてくれるなんて思わなかったよ。こういうの、Yバックって言うんだよね」

「ふ…っ、ぁ……」

尾てい骨をスリスリとなぞる指先に、じわりと生理的な涙が浮かぶ。
天子が身につけているインナーは、前面の生地から両脚の付け根にバンドが巻き付いている。故に、後ろ側はウエストのゴムと付け根のバンドのみが見える状態で、他は一切覆われていない。

「ん……っ、よろ、こんで、ます…?」

サプライズというほど大層な試みではない。閨の中でも決して理性を手放さない彼の、劣情を煽りたかっただけだ。優しさなんていらない。もっと、こちらが壊れるくらい欲しがってくれてもいいのに。

「喜んでないように見えるなら、言葉より態度で示そうか」

そっと体をうつ伏せられ、膝付近でわだかまっていたスウェットパンツは足先を通り抜ける。彼は背骨に沿って、優しく唇を落としてきた。もどかしい接触に揺れる下肢をつつかれる。

「腰上げて」

甘い声で促され、枕に突っ伏したままおずおずと膝をつく。羞恥でのぼせた頭がぼうっとしてきた。羽で撫でられるような刺激と、腰の狭間をわざとらしく行き来する冷たい指に翻弄され、背を撓らせて吐息をこぼす。下着にくるまれたものが興奮に兆し、確実に性感を蓄積していく。

「っあ、あ……っ」

親指でぐっと狭間を割り開かれ、舌先がそっと敏感な後孔に触れた。時折濡れた音を立てながら、ひくつく場所をぐりぐりと抉られて仰け反る。

「ほら、暴れないの」

「ん…っ、んう……っ」

たしなめるようにくいくいと付け根のバンドを引かれ、連動した下着の前が圧迫される。濡れそぼったそこがにちゃりとくぐもった音を発し、摩擦を欲してつい腰が揺らめいてしまう。恥ずかしい部分をさらけ出し、あまつさえ舐められているなんて容認したくもないが、張り詰めた中心は蜜を浮かべて震えるばかりだ。

「んん……っ、んぅ…!」

ヒクヒクと収縮するそこに何度も舌をねじこまれ、体の奥の奥まで溶かされてしまうような錯覚を覚える。内腿のバンドと肌の境目をくすぐるように指が這うと、シーツについた膝が覚束なく揺れた。

「も……っ、やだ、あぁ……っ」

抜かれたと思えばつぽつぽと舌先で入口をつつかれる。神経が集中した場所を弄られる快感に、とろかされた粘膜がより確かなものを求めてわななく。

「あ」

ふと顔を上げた火野は体を起こし、天子の髪を撫でてベッドを下りた。唐突に愛撫を取り上げられ、ぐちゃぐちゃの顔を枕で拭ってから彼に焦点を合わせる。

「な、に……?」

「ごめんごめん。すぐ戻るから待ってて。ね」

言うが早いか、火野はスタスタと足早に寝室を出て行ってしまう。
嘘だろ。沸騰した脳みそが急激に冷めていく。こんな状態で放り出されるなんてあんまりだ。濡れた下肢がひどく心許ない。

「お待たせ」

一分も経たずに戻ってきた彼は、小さなボトルを手にしていた。うっすらと透けた中身はとろみを帯びていて、なるほどそれを取りに行ったのかと納得する。通常ならそこのサイドボードに収納してあるはずで、いったいどこにしまっていたのだろう。
彼はボトルの包装を剥いてフタを開ける。新品のようだ。切らしていたのかと考えつつ、寝そべって続きに勤しむ。

「っ、あ……っ」

とろりと濡れた指先が、綻んだ入口を優しく揉み解す。男にしてはすんなりと細く、爪の先まできれいに整えられた彼の指。人差し指が薬指より長いことも知っている。

「あ…っ、んん……!」

窄まりを開かせて、指がゆっくりと沈み込む。焦らされていたそこはきつく指を締め付けるが、奥に進もうとすれば粘膜の蠕動を以て深く咥えようとする。そこで、天子はようやく違和感に気づいた。

「ぁ……っ? なに……、あつ…っ……」

「効いてきたね」

「は、っああ……!」

ぬぷぷ、と深く貫かれて悶えると、内部はより熱を溜め込んでいく。入口も、粘膜も、あつい。触れられたところがじんじんと疼く。

「な、に……っ、あ、これ…っ」

「温感作用だよ。酸化熱や蒸発熱のように、化学反応には熱が付きものだよね。これは水和熱を利用しているの。成分中のグリセリンが、肌の水分と反応すると僅かに発熱するんだよ」

「そ、んなもん、なんで…っ」

「僕はほら、手が冷たいから。少しでもあったかくなる方がいいでしょ? まぁ、輝の部屋から勝手に拝借したんだけど」

「ぁ、あっ……!」

敏感な粘膜を責める指が増える。質量は違うのに、熱さのせいで彼のものを既に挿入されているような感覚に陥る。

「これ……っ、んぁ、やだ、ぁ…っ」

腹側の弱点を擦られる度に、中心が下着の中できゅんと震える。とうにその生地は濡れて色を変え、吸収した温感剤によって天子のものもじんわりと温まっていた。

「こんなに締め付けてくるのに?」

「ぁあ……っ」

指をまとめて抜き出された刺激で達してしまいそうだった。期待にびくつく腰を掴み、せっかくだから、と言いつつ彼は欲望を押し当てた。

「このまま、ね」

「ひ……っ、あぁ……!」

吸いつく入口を圧倒的な熱で拓かれ、待ちわびた内壁を余すことなく摩擦される。無意識に前へ逃げようとすれば、腰をぐっぐっと押し付けられた。愛しい人の一部が、みっちりと隘路を占有する。

「いつもは、もっと時間をかけないときついままなのにね。今日はちゃんと、奥まで届いてる」

「っは、ぁ……っ、だめ、あ、や……っ」

腰を持ち上げられ、下からたんたんと楔を打ち込まれて泣き叫んだ。猫が伸びをするような体勢で腰を反らし、身も世もなくぼろぼろと涙を振りまく。熱を持った内壁が別の熱に絡みつくと、尚も刺激をねだるように収縮する。

「ん……っ、んぅっ……!」

枕に顔を埋め、吐息を少しずつ逃がす。首筋を甘噛みされる僅かな痛みと、下肢を揺さぶられる振動にびくびくと腹の奥が反応した。もう一度押し潰されたら、簡単に果ててしまうのに。わざとらしく追従を緩め、小刻みに締め付ける粘膜を楽しむように浅い部分を責めてくる。

「っは、ぁ、ーーーっ」

ゆっくりと抜き出されれば、突かれる刺激とはまた別の快感に背筋がぞくぞくと震えた。終わりのない快楽から逃れようと膝でシーツを進むと、ウエストのゴムをくいと指に引っ掛けて体を戻される。

「ダメでしょ。逃げないで」

「ぁ、いや…っ、や、だぁ………っ! 」

お仕置きとばかりにトントンと奥を小突かれ、呑み込み切れない唾液が顎を伝う。敏感な襞をたっぷりと蹂躙されて、詰まった嬌声を零しながら、呆気なく上り詰めてしまった。下着の内側が濡れて貼り付き、触れられていない中心は張り詰めたまま、絶頂の余韻にびくつくばかりだ。

「っあ、ま、て……っ、まだ……ぁっ」

きゅんとうねる内部をがつがつとさらに貪られて腰が跳ねる。達したばかりのそこは、いつ欲望が放たれてもいいように、彼のものへまとわりついた。

「ぁっ……、あ、んん…っ」

鼓膜に濡れた吐息を吹き込んで、火野は下着のバンドを無造作に弄る。下着の中でぬるぬると自身が擦れて堪らない。

「不思議だね。紐が巻き付いてるだけなのに興奮するよ」

剥き出しの肌をひと撫でして、背中をつーっと指でなぞる。

「でも、ほとんど脱いじゃったから寒そう。温かくしようか」

え、と顔を上げるなり、すぐ横でポンとフタを開ける音がした。トロトロと彼の指を濡らす液体に、天子はぎょっとして身をよじろうとする。

「も、要らな…っ、ん……っ」

じわじわとした温もりが背中に塗り広げられる。手のひらが腰を滑り、双丘の丸みを撫でながら、丁寧に下着を脱がされた。

「ぁあ……っ」

焦れていた中心を濡れた手で揉みくちゃにされて腰が揺れる。中心から後孔にかけてをマッサージするようにぬるぬると指で擦られて、力の入らなくなった下肢がシーツに崩れ落ちた。

「こういうの好きだったんだ。勉強になったよ」

「ぁ、ん、ちが……っ」

いくらかぶりを振っても、感じていては話にならない。
シーツとの間に潜り込んだ手のひらが胸元を撫であげ、ぷくりと凝っていた尖りをぬるつく指先で捕らわれる。指の中で滑っては摘まれ、じんじんと熱を持つと、そこを舐められているような感覚に腹の奥が疼いた。

「さすがに、汚れそうだね」

するりと自分の服を脱ぎ落として、彼が覆い被さってくる。熱い背中で感じる控えめな体温に、頭の芯が焼き切れてしまいそうだった。
ゆっくりと腰を使われて、後孔を責める動きにぎちぎちと内壁が締まる。

「や、ぁ……っ、また…っ、ぁあ……!」

達したのに、降りてこられない。体の中の一番深い場所は、ずっとずっと気持ちいいまま、彼を欲して震え続けている。
繋がりすら溶けてしまうほど熱い。霞んだ視界の中で、彼の手をきつく握り込んだ。
このままひとつになりたいけれど、やっぱりふたりがいいから。


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